日産は野球部復活とか言っている場合ではないのでは

日産が2009年に廃部となった野球部の復活を決めたという報道です。私は、日産はそんな状態ではないと思います。日産野球部は横須賀追浜工場と福岡県苅田工場に置かれ、横須賀は都市対抗の名門チームで、苅田も九州の強豪チームでした。これは日産の業績不振によりフランスのルノーが6,000億円出資し、カルロス・ゴーン氏が社長に就任して合理化の一環として廃止しました。その後日産は復活を遂げ、2018年3月期には販売台数577万台、売上高11兆9,512億円、当期利益純利益7,469億円という過去最高益を計上するまでになっています。その後2018年11月19日にゴーン会長(当時)が逮捕されたことから業績が悪化し、2021年3月には販売台数405万台、売上高7兆8,625億円、当期利益-4,486億円まで落ち込んでいます。そして直近の2023年3月期は販売台数330万台、売上高10兆5,966億円、当期純利益,2219億円となっています。

これをもって業績が回復したと判断しているようですが、これは危険です。というのは販売台数がピークの577万台から下降を続け330万台で底を打ったとは言えないからです。この間247万台、約43%減少しています。この数字は中規模の自動車メーカーが1社無くなった勘定です。一方売上高は1兆3,546億円、約11%しか落ちていません。以前は1台買えば1台おまけにでも付けていたのでしょうか。ちょっと考えらえないような販売台数と売上高の関係になっています。

売上高10兆円の企業では純利益2,000億円くらいは研究開発費や経費の圧縮、在庫調整などでひねり出せる数字です。特に研究開発投資にしわ寄せが行っていないか気になるところです。今期日産は売上高12兆6,000億円、当期純利益3,400億円を計画しています。第一四半期は売上高2兆円9,176億円、純利益1,054億円と損益面は順調なようです。しかし販売台数が約79万台(年間ベースでは約320万台)に留まり、この結果今季の目標販売台数を400万台から370万台に下方修正しています。この原因は中国であり、第一四半期中国での販売台数は約45%減少しています。これは中国市場の電気自動車化によるものであり、日本メーカーは全社減少しているようです。中国は日産にとって米国に次ぐ大市場であり、ここで販売台数を落とせば日産の強みが失われることになります。そういう意味で重大な問題と言えます。

ゴーン逮捕後ギクシャクしていたルノーと日産の間の関係は、今年2月に合意が成立し、ルノーは日産に対する43.4%の持ち株のうち28.4%をフランスの信託銀行に移し出資比率を日産と対等にするということです。そして日産はルノーが設立する電気自動車の会社に最大930億円出資することとなったようです。この合意で日産とルノーの関係は対等になるというより希薄になると見るべきだと思います。その結果ルノーはパートナーを組み替えるために日産の全株式(43.4%)を一括で処分することもあり得ると思われます。そのためルノーとの関係は日産にとって今後とも頭の痛い問題になりそうです。

このように日産の将来は未だ視界不良です。特に損益は見る人が見ればちょっと合点がいかない状況です(販売台数の大幅減少に比べ売上高や利益が余り減っていない)。こんな中で野球部を復活するのは経営陣および社員の危機感の喪失、過剰な楽観論の蔓延になるのではないかと危惧されます。日産は依然として日本で一番危ない自動車メーカーです。