損保不正で機能不全の金融庁には行政監察が必要

企業向けの火災保険をめぐるカルテル疑惑で損保大手4社(東京海上日動、三井住友海上、損保ジャパン、あいおいニッセイ同和)は、金融庁から受けていた報告徴求命令に基づく報告書を9月29日に提出したとの報道です。ある新聞では少なくとも100社超の取引先について、保険料を事前に調整するなど不適切な行為をしていた疑いがあると報道していますから、実体は殆どの企業でやっていたと言うことだと思われます。

私は若い頃自動車メーカーで販売店の保険部門のとりまとめ窓口を担当していたことがありました。販売店はほぼ全部の損保と取引がありましたが、長い間に各損保間のシェアが序列化し、シェアが一番高い会社が幹事会社となり、多くの損保との間の調整窓口(連絡窓口)になります。販売店の場合には、毎年1,2回保険コンテストを行い、成績に応じて報奨金を出したり表彰したりしており、その企画を幹事会社が行い、他の損保会社と調整していたようです。保険コンテストの集計結果は幹事会社に最初に知らせるルールとなっており、公表日以前に幹事会社に集計結果を送付するのですが、ある年には公表日前に幹事会社が結果を販売店に漏洩したこともありました。このように損害保険は、多くの損保で引き受けてもシェアが確定すればそれ以降の調整はシェアが一番高い幹事会社お任せになります。この仕組みが全ての損害保険で確立していますので、調整は通常業務の一部となっており、これが新規引き受けや更新でも行われるのは当然と言えます。従って今更カルテルと言われても困ると言うのが損保担当者の素直な感想だと思われます。

今回のカルテル問題は業界全体の慣習であり、特定の誰かが処分されることにはならないことから、損保にとって本件はビッグモーター事件より気楽な事件です。それに今後の対策としては面と向かって調整しないということであり、各社の提案としてはこれまでの提案と同じ様な内容となり、実体は変わらないことになります。

本件で問題にすべきは、損保よりも金融庁だと思われます。金融庁はこれまで定期的に損保の検査を行っており、このような営業のやり方についても説明を受けています。それで問題にされていなかったことから損保が大手を振って続けて来ています。そこに本件の最大の問題点があります。現在金融庁はBM事件で損保ジャパンに立ち入り検査を行っていますが、BM事件の噂は2021年秋頃から新聞・雑誌で盛んに報道されており、金融庁としてはこれらの時点で立ち入り検査すべきでしたが、金融庁が動かなかったことで被害が拡大しました。

損保でBM事件とカルテル事件が起きていることを考えると金融庁の損保への監督が機能不全に陥っていることが分かります。機能不全に落ちった原因を考えると、金融庁職員の損保への天下りが増加し、検査監督が形骸化していることが疑われます。その兆候して2018年7月から2020年7月まで金融庁長官を務めた遠藤俊英氏が半年後の2021年1月には東京海上日動の顧問に就任していることが挙げられます。更に遠藤氏は今年の6月傘下にソニー銀行、ソニー生命、ソニー損保など金融庁の監督下にある企業を持つソニーフィナンシャルグループ社長に就任しています。これでは金融庁の監督が機能するわけがなく、金融庁の職員も検査監督よりも天下りの営業に精を出すことになります。その結果金融庁から損保への天下りが激増していると思われます。

損保の不正続発は金融庁の検査監督機能が形骸化していることを示しており、金融庁への立ち入り検査こそ必要ですが、残念ながらこの制度はないことから、総務省行政評価局による行政監察が求められます。