外相交代は岸田首相が外務省人事を取り仕切るため?

9月の岸田内閣改造では外相が林芳正氏から上川陽子氏に交代したことが一番のミステリーでした。岸田首相は安倍政権で外相を約5年務めており、首相をやるには外相経験が必要と言っていました。林氏は宏池会の次の首相候補であり、林外相は岸田首相が林氏の首相就任の道筋をつけるための人事と考えられていました。それが2年で交代となったのはちょっと意外でした。その理由についてはいくつかの憶測がありますが、1つは林氏に宏池会の閥務に専念させ、岸田首相の次の首相候補として名乗り出やすくしたと言うものです。岸田首相も外相を交代し宏池会の閥務に専念していたからこそ安倍首相辞任後の総裁選に名乗り出やすかったことがありますから、同じ環境を作ったと言うわけです。もう1つは、林氏は閣僚経験も豊富で総裁選にも出馬したことがある大物外相だったことから、岸田首相が指示しにくく岸田首相の思い描く外交になっていなかったからと言うものです。確かに福島原発の処理水放出では、中国が強烈に反発し日本からの海産物の輸入を停止しました。これは外交の失敗とも言え、親中派と言われる林氏を外相にした意義が失われるものでした。

新たに外相となった上川氏は、閣僚経験は豊富ながら首相候補になるような大物ではなく、岸田首相には使いやすい実務派と言えます。多分今後の外交は実質的に岸田首相主導で進めることになると思われます。

これを伺わせる外務省人事が10月24日にありました。米国大使に山田重夫前外務審議官、中国大使に金杉憲治インドネシア大使、ロシア大使に武藤顕前外務省研修所長、国連代表部大使に山崎和之ジュネーブ国際機関代表部大使、インドネシア大使に正木靖欧州連合代表部大使を充てるなど大使18人が交代する大規模なものでした。上川外相は外相になったばかりでこのような人事を差配できるはずがなく、これは外相経験が長かった岸田首相の人事と考えられます。特に中国大使に岸田外相の評価が高った金杉インドネシア大使を持ってきたところに岸田首相の意向が感じられると言われています(林外相交代の真意も伺える)。それに加え米国大使に山田氏を持ってきたことにも岸田首相の意向が感じられるように思われます。というのは、山田氏は慶大卒であり、岸田首相の私大(早大)の矜持が伺われるからです。岸田首相は外相当時初の私大(早大)卒の外務次官を誕生させ、その後米国大使にしています。山田米国大使はこれに続く私大路線と考えられます。岸田首相は経産省派遣の首相秘書官に早大卒の荒井勝喜氏を任命し、荒井氏は経産省初の私大出身事務次官候補と言われていました。その後荒井氏は性的少数者や同性婚をめぐって「隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」などと発言し更迭され、その5カ月後には経産省の官房審議官に昇格していますが、これも岸田首相人事と考えれます。このように岸田首相は自分の出身母校である早大OBを重用する傾向が見られます(慶大は同列)。

今回の大使人事は明らかに岸田首相の意向が働いており、これをやるために林外相を交代させたのかも知れません。首相になった最大の喜びが人事権である岸田首相ならあり得ることです。