肥薩線復旧は蒲島知事のためになってきた
熊本県はJR肥薩線の復旧費のうち実質的な地方負担分約12億7千万円の全額を熊本県が負担する方向で検討に入ったという報道です。
復旧費は概算約235億円で、国土交通省が球磨川の河川整備や道路復旧事業などとして実施する分を引いた約76億円について、JR九州と国、県と関係地町村が3分の1(約25億円)ずつ負担、県と関係市町村負担分は特別交付税措置の対象となるため、半額の約12億7千万円が県と関係市町村の実質負担分となり、県は当初これを県と関係市町村が半分(6億3,500万円)ずつ負担するという案を提案していましたが、関係市町村は同意しなかったようです。
更に県は復旧後の維持費についても、従来案より市町村の負担を少なくする案を検討しているということです。 これまで県は、八代-人吉間の年間維持費を約7億4千万円と試算し、国の補助制度や過疎債を活用すれば、関係市町村負担分は1億1,970万円(約16%)まで抑えられ、これを復旧後観光客の増加といった恩恵を受ける人吉市が5割、八代市が3割、残る2割を10町村で負担する案を示していました。しかし復旧費同様関係市町村が同意しなかったようです。
この経緯を見ると、県と関係市町村の肥薩線復旧にかける姿勢の違いが浮かび上がってきます。県は何としても肥薩線を復旧させたいと言う姿勢なのに対して、関係市町村には復旧の熱意がないように見えます。2020年7月の豪雨被害から3年以上が経過し、関係市町村では肥薩線がなくても日常生活は回り始めています。6月22日に開催された県と関係市町村の協議会の場で県の田島副知事は、通勤通学など日常の利用者数は「極めて少ない」との認識を述べていますから、経済および利便性の面では肥薩線復旧に関する結論は出ているも同然です。従って肥薩線復旧は経済および利便性を離れた問題になっています。
それは何かと言うと蒲島知事の贖罪です。蒲島知事は川辺川ダム建設計画中止という歴史的判断ミスを犯し、2020年7月の球磨川大洪水で住民の多数の生命と多額の財産が失われるという惨事を引き起こしました。これについては蒲島知事も自分の判断ミスを認識し、その後速やかに川辺川ダム建設計画の再開に動いています。肥薩線復旧は蒲島知事にとって、自分の判断ミスが引き起こした惨事に対する人吉球磨地方の人たちへの贖罪であり、関係市町村の意向に関係なく実現したいものとなっているように思われます。
肥薩線は復旧した初年度は10億円程度の赤字(県の試算より膨らむと予想)、その後沿線人口の減少による乗客の減少、物件費や人件費の値上がりで年間1億円の赤字が増えていくと考える必要があります。その結果20年後の赤字は約20億円、30年後の赤字は約30億円程度に膨らみます。県は国の補助制度や過疎債を活用すれば、関係市町村の負担は約16%程度(初年度)で済むと言っていますが、赤字額が膨らめばこの絶対額も大きくなりますし、それにこんな制度がいつまでも続くはずがありません。更に10年に1度くらいの割合で自然災害が発生し復旧工事が必要になることの想定も必要であり、年間1億円程度の復旧準備金を積み立てる必要があります(10年間10億円)。こうなると復旧しても毎年廃止が議論される状態となります。肥薩線は経済原則に反し、かつ住民の利便性の観点からも必要のないものですから、そもそも持続可能性がないのです(SDGsに反する)。
現在県庁に設置された第三者委員会で調査が行われている旅行助成金不正問題で県庁幹部が次のような発言をしたと報道されていますが、肥薩線復旧問題でも同じようなやり取りがあったと予想されます。
「(返還額を)まけてくれとかそういう話になって、間に入って(上司2人と)今調整している」「希望は『これくらいがいいな』ってTKUが言いよらすけん、そこに最終的にアウトプットがなるように」「4500万(円)アッパーになってくると、ややこしくなる。希望的観測としては2500万(円)から10%、2千万(円)の10%ぐらいまでで止まればいいなと思う」(発言内容は熊本日日新聞より引用)。
肥薩線復旧費用減額はこんな腐敗した県庁の風土から出てきたものですが、根っこの責任者が同じであることは考えれば当然のことと言えます。このように県民の信頼を失くした県に対して関係市町村は、次のような条件で交渉に臨むことが考えられます。
- 復旧費用の地方負担分は提案通り全額県が負担する。
- 収支の赤字など年間の運用維持費用も全額県が負担する。
- 30年間は県が責任をもって維持運用する。
これは肥薩線を県営鉄道化することを意味しており、関係市町村にとって最も望ましい形です。肥薩線復旧が蒲島知事の贖罪の意味が強いこと、蒲島知事が川辺川ダム建設中と言う普通の人にはあり得ない判断をしていることを考えれば、県が受諾する可能性は十分あります。また交渉が不成立になっても関係市町村には痛くも痒くもないので、強気の交渉姿勢で臨むことができます。関係市町村が運営維持費を一定の割合で負担する条件を飲むことは地獄に引きずり込まれることであり、絶対やめるべきです。肥薩線復旧よりも日田彦山線のようにBRTにした方が良いです。BTRなら、沿線に急病人が出た時は救急車を、火災があったときは消防車を走らせることもできます。
蒲島知事の得意技は、現状における民意(声の大きい人たちの主張)を受け入れる或いは自分の考えを民意に仕立て上げることであり、客観的に妥当性の高い判断を追求することではありません。これは川辺川ダム建設計画中止判断を見れば分かります。従って肥薩線復旧の妥当性の判断を蒲島知事に委ねてはいけません。委ねたら川辺川ダム計画中止と同じ惨事に合うことになります。