楽天証券株式購入で分かるみずほFGのガバナンス不全

みずほフィナンシャルグループ(みずほFG)は11月9日、傘下のみずほ証券を通じて楽天証券の株式29%を900億円で追加購入すると発表しました。2022年10月にもみずほ証券は楽天証券の株式20%を800億円で購入しており、この結果みずほ証券の楽天証券に対する出資比率は49%まで高まるということです。

楽天証券は今年7月東証に上場申請をしていましたが、東証の上場承認を得られそうもないようです。この理由は楽天証券がこの10月から株式売買手数料を無料化したことにより楽天証券の損益が大幅に悪化することになったためと言われています。私も11月初め久しぶりに楽天証券を利用しましたが、手数料0コースというものがあって「嘘だろう」と思いました。SBIの場合は自動的に手数料0扱いになるのですが、楽天証券の場合は従来の手数料コースを切り替えないと0扱いにはなりません。私は手数料0というのが信じられず当日は従来の手数料コースで取引をしました。後日調べてみたら本当に0になる(落とし穴はない)ことが分かりましたが、「楽天証券はやって行けるのだろうか」と不安になりました。それくらいこれは楽天証券の損益にダメージを与えるはずです。同時に楽天証券が上場申請していることを知っていましたので、「上場できるのだろうか」とも考えました。そしたらこのニュースです。手数料を無料化すれば上場できなくなることは楽天もみずほ証券も分かっていたはずですから、本件株式購入の話は10月以前に概ね合意していたと思われます。

楽天が虎の子の楽天証券の株式をここまで譲渡するのは、楽天モバイルの設備資金調達用に発行した社債の償還資金を確保するためであり、この売買は株式担保の融資の意味合いがあります。そう考えるとみずほFGのガバナンス不全が浮かび上がってきます。

というのは、みずほ証券は昨年10月に楽天証券の株式20%を800億円で購入していますから、楽天証券を時価総額4,000億円と評価したことになります。直前期の楽天証券の経常利益は100億円台であり、当時大和証券が経常利益約1,000億円の予想で時価総額約9,000億円だったことを考えると、その5分の1の2,000億円程度が妥当な時価総額と考えられました(上場前ディスカウントを考えるこれでも高過ぎる)。今回は29%の株式を900億円で購入していますので、楽天証券の時価総額を約3,000億円(900億円÷0.29)と評価したことになります。この評価額に基づくと昨年10月の800億円は約600億円の評価額(3,000億円×0.2)となり、約200億円の含み損が発生しています。これに留まればよい方で、楽天証券の時価総額はせいぜい2,000億円、損益の悪化を考える1,000億円でもおかしくないと考えられますから、2,000億円だと約700億円(800+900-2,000/2)の含み損で、1,000億円だと1,200億円(800+900-1000/2)の含み損となります。

みずほFGとしては楽天証券のネットの顧客をみずほ証券の店頭に誘導する、みずほ証券が引き受けた金融商品を楽天証券のネットの顧客に販売するなどで上げられる利益を考えた評価と言うのでしょうが、ちょっと無理があります。実体は担保割れの融資です。

この取引についてみずほFG内でどれだけの議論がなされたか分かりませんが、みずほFGは2021年のシステム障害により金融庁から「経営が機能していない」として経営陣の刷新が求められました。その際の経営陣の組成も従来の延長でなされており、今回のような出来事は驚きではありません。それに楽天証券との取引は、楽天の三木谷社長がみずほFGの母体の1つである興銀出身であり、みずほFGの木原社長は興銀の1つ後輩で、大学も一橋大で同窓であることも影響しているように思われます。やはりみずほFGのガバナンスには問題があるように見えます。