日本の予算は税収不足ではなく支出過剰

岸田政権の支持率がダダ下がりなのは大増税が間違いないからです。防衛費1兆円の増税は岸田首相が明言していますし、こども対策費3.5兆円の大部分も増税によるしかないのは明確です。岸田政権では増税という言葉を嫌い、こども対策費の一部は健康保険料に上乗せすることを考えているようですが、家計の負担が増加することは同じであり増税と同じです。こんな姑息なことをする点も支持率低下の原因になっています。

日本の国民負担率(所得に占める税金と社会保険料の割合)は47.5%程度と言われており、所得の約半分が国に徴収されている勘定です。1990年初頭のバブル崩壊以降国民の所得はほぼ横這いなのに消費税は7.5%引き上げられ、社会保険料は小刻みに引き上げられてきました。その他国立大学の入学金や授業料が大きく引き上げられるなど準公的負担とも言える項目が大きく引き上げられています。これを含めると公的負担率は軽く50%を超えていると考えられます。良く江戸時代の時代劇で農民が重税に苦しむ場面が登場しますが、あれが5公5民の状態であり、現在の日本の国民は江戸時代の農民よりも苦しい生活をしていることになります。

この原因は、国民の所得は増えないのに増税や社会保険料の引き上げを繰り返してきたからですが、さらにその原因を考えると「予算の支出に歯止めがかかっていないから」ということになります。国の予算規模は毎年膨らんでおり、1990年の約66兆円から2022年度は約107兆円と約41兆増加しています。一方税収は約58兆円から約65兆円と約7兆円しか増加していません。これを持って財務省は税収不足と言っているようですが、これはどう見ても支出過剰です。一般家庭を考えれば、収入の範囲内で支出すべきなのに借金をして支出を増やしているのです。一般家庭の所得が増えていないなかで増税したら家庭は支出を絞りますから経済(GDP)は拡大せず(約550兆円で横這い)、税収は思った程増加しません(税収はGDPの約12%。従って税収を増やすにはGDPを増やすしかない)。

こんな状況で日本の予算を見ると既存の支出項目は維持したまま新規の支出項目を増やしています。その結果支出が毎年拡大する結果となっています。この支出は一時的には国債で賄われますが、国債は借金であり税収で返済する必要があるとして毎年増税が話題になります。実は国債は必ずしも税収で返済する必要はなく、日銀が市場から買い入れ日銀券と相殺すれば消えてしまいます。なぜこういうことができるかというと、国債は信用資産(国の信用に基づく実体がない資産)であり日銀券は擬制負債(債権者がいない負債)だからです。ようするに国債と日銀券が相殺で消えても誰も損をする人がいないのです。国債は最終的にはこのようにして処分することが予定されています。だから国債は税収で返済する必要があるというのは嘘です。

このようにGDPが増えない中で予算の支出を増やすには国債を増やすという方法もあるのですが、その前に既存の支出を削減して新規の支出に充てることを徹底するべきです。例えばこども対策に3.5兆円必要ならば、既存の支出を3.5兆円減らすことを考える必要があります。これをしなければ支出が無制限に拡大するのは当たり前です。新規支出が必要ならば既存の支出のうち必要度の低いものを問答無用で中止します。こうすれば支出の項目が変わるだけで支出総額は増えません。会社や学校などの団体では普通にやっていることだと思います。これが何故国でやられないかというと国債という魔法の財布があるからです。最後に日銀のバランスシートで国債と日銀券を相殺するというみっともないことをやりたくなければ、これを国の予算でも徹底する必要があります。

私がこれを痛感したのは肥薩線復旧問題からです。熊本県は2020年の球磨川大水害で鉄橋や線路の大部分が使用不能となった肥薩線を復旧しようと沿線自治体の費用負担を大幅に軽減する(復旧費の負担は0,その後の運営赤字の負担は5,000万円までとする)ことで沿線自治体の合意を取り付けましたが、県が負担する費用の大部分は国の交付金や補助金で賄われる計画になっています。肥薩線復旧後の赤字は当初でも年間10億円、その後毎年1億円程度増えることが予想されており、これを国の資金で賄うとすると国としては増税が必要となります。こういう支出が多数あり、これが増税につながっています。増税が嫌なら肥薩線復旧のような増税の原因となる支出を徹底的に止める必要があります。