高校無償化なら私立中学も無償化しないと片手落ち

東京都は2024年度から、都内在住の高校生を対象とした授業料助成の所得制限を撤廃し、私立校を含めたすべての高校の授業料を実質無償化する方針を固めたということです。 現在、東京都に限らず、国が実施する「高等学校等就学支援金制度」によって、高校に通う所得要件を満たす世帯の生徒に対して、授業料に充てるための資金の支給が行われています。支給額は世帯年収によって、公立高校で年間11万8,800円の支給、私立高校などは加算され、最大39万6,000円まで支給されます。 所得要件は、親の働き方、子の数、子の年齢によって違いがあり、目安として、両親・高校生・中学生の4人家族で、両親の一方が働いている場合は年収910万円未満が対象となります。東京都は、国による助成に加えて、授業料軽減助成金として、都内の私立高校の平均授業料相当額である47万5,000円まで(在学校の授業料が上限)の助成が受けられます。つまり、年収目安910万円未満の世帯は、47万5,000円の範囲内で、授業料の実負担額まで助成されるので、国公立私立問わず、高校の授業料が実質的に無料になっていました。これが来年度から910万円の所得制限がなくなり、全世帯に適用されることになります。

この結果、家計の事情で私立高校に行けず公立高校に行っていた生徒が私立高校に行くようになるのではないか、と言われています。例えば、家庭の経済的事情(兄弟全員は私立にやれない)で日比谷高校に行っていた生徒が開成や麻布、渋幕、桜陰、女子学院などに流れるというわけです。その結果、都内の公立高校と私立高校の学力格差が広がることになると言われています。

こうなると公立高校と私立高校の位置付けが明確になってきます。公立高校は日本人としての最低限の基礎教育を行う学校、私立高校は才能教育を行う学校という位置付です。現在既にそうなっていますので、実体の理論付けに過ぎません。才能教育なら公立高校でもできるという意見もあるかと思いますが、これまで積み重ねてきたノウハウ、教員の質、人事制度、給与体系などを考えると公立高校と私立高校の差は埋めがたいと思われます(私立が遥かに上)。家計の経済事情のよって私立高校に行けない生徒がいなくなるなら、とても合理的な制度です。

このように大きな効果を発揮しそうな東京都の高校授業料無償化ですが、大きな見落としがあります。それは、これが本当に効果を発揮するためには私立中学校の授業料無償化が必要だということです。公立中学校の場合は義務教育として無償ですが、私立中学校は義務教育の範疇を超えるとして有償であり、私立高校並みの授業料です。私立高校が無償なのに義務教育の範疇に入る私立中学は有償というのは筋が通りません。さらに大学進学で圧倒的実績を誇る有名私立高校は、多くが中高一貫となっており、高校からの入学がないところが多くなっています。このような私立高校に入学するチャンスは中学入学時しかなく、私立中学校の授業料を無償化しないと高校無償化の意義が削がれることになります。従って高校授業の無償化には私立中学校授業料の無償化が不可欠です。私立中高一貫校は東京、大阪などの都会に多く地方では少ないですが、この原因は、地方は所得が少なく中学校から私立にやれる家計が少ないからであり、これが都会と地方の学力格差に繋がっています。従って私立中学校授業料を無償化すれば地方にも私立中高一貫校が増え、この問題の解消に繋がります。高校無償化は今後地方にも広がると思われますが、これを実施する場合、合わせて私立中学校の無償化も実施する必要があります。