次の熊本県知事はTSMCのパートナーになれる人

蒲島知事が12月6日県議会で来年3月の知事選には出馬しないと表明し、次の県知事は誰になるのか熊本県民の関心を集めています。12月26日には元熊本市長の幸山政史氏が立候補を表明しました。幸山氏は過去2度の知事選に立候補し、蒲島知事の厚い壁に跳ね返されてきました。従って蒲島知事が出ないとなると立候補するのは確実視されていました。

こうなると対立候補はだれになるかに関心が行きます。県議会多数派の自民党は12月27日、現副知事の木村敬氏に立候補を要請したという報道です。これに対して木村氏は「大変重く受け止めている。前向きに考えたい」と述べ、年明け早々に決断する意向を示したということですから、立候補するものと思われます。

熊本県は蒲島知事が全国的に名知事という評判で、さぞ立派な県だろうと思われますが、県民1人当たり所得40位(2020年)という貧乏県であり、子供の全国学力テストでも下位(30位台)に位置する低学力県です。従って各種指標で見たら蒲島知事は名知事ではなかったことになります。ただし蒲島知事16年間には、白川氾濫、熊本大地震、球磨川大洪水などの災害が続き、この復旧復興が蒲島知事の主たる仕事でした。蒲島知事は被災者に寄り添う姿勢で高評価を得たと言えます。しかし球磨川大洪水は、蒲島知事が就任早々行った川辺川ダム建設計画中止の判断が被害を大きくしており、歴史的誤判断も行っています。

蒲島知事はハーバード大学大学院(ケネディスクール)卒で東大法学部政治学科教授から熊本県知事に就任しており、政策決定過程では有識者会議を重視し、政策決定においては民意を重視します。有識者会議はメンバーに東大教授や一流の経済人などを揃えて最高のプロセスを経た形式になっていましたし、意思決定においては県民の民意であることが強調されました。しかし川辺川ダム建設計画中止判断を見るとこれらが形式的かつ偽装であることが分かります。川辺川ダムについての有識者会議には有名研究者を集めた結果、報告書は各論併記で結論が分からなくなっていますし、ダム中止が民意と言っても、ダム中止派の多くは県外の環境保護活動家であり、地域の民意ではありませんでした。それに蒲島知事の一番の間違いは、ダム計画の判断は、「ダムがなくても住民の生命財産を守れるかどうか」という科学的知見に基づかなければならないのに、民意を拠り所とした点でした。蒲島知事の歴史評価は、好評な県民評価とは反対に「誤った判断で多数の住民の生命と財産を失くした知事」ということになります。

しかし2022年11月に台湾の世界最大の半導体ファンドリ企業TSMCが熊本に工場を作ることが決定した結果、熊本は飛躍のチャンスを掴んだことから、これも蒲島知事の功績と考えられています。実際は違うと思われますが、蒲島知事が観光客誘致や農産物の輸出先として台湾を頻繁に訪れていたこと、その際に同行したくまモンが台湾で人気者となり、熊本がTSMCに好意的な印象を持たれていたことは事実と思われ、蒲島知事の功績にしても良いように思われます。

次の熊本県知事に望まれるのは、TSMC進出という歴史的チャンスを生かし、熊本を日本の半導体生産基地にすることです。TSMCは第2工場ばかりでなく、第3工場も熊本に作る計画があると報道されており、これを実現することが新知事の最大の使命になると思われます。これが実現すれば日本の半導体関連企業ばかりでなく台湾の関連企業も熊本に進出し、熊本は農業県から一挙に工業県に脱皮します。こうなると1人当たり県民所得は少なくとも20位台には躍進し、九州トップとなります。また企業の増加により子供の教育熱も高まり、全国学力テストでも20位台に躍進することが予想されます。蒲島知事の時代には、1人当たり県民所得や全国学力テストなどの指標は目標や計画に掲げず、「幸福量」という評価不明の言葉が多用されましたが、次の知事ではこれらの指標を目標や計画に掲げて全国上位の自治体を目指して欲しいものです。

このためには、次の知事はTSMCがパートナーと認める(経歴がある)人、全国区で競争してきた人でなければならいことになります。本件に関するネット書き込みを見ると、「県知事は熊本出身者でないと」という声が少なからず見受けられますが、熊本の潜在力を引き出してきた人を見れば熊本原住民(ずっと熊本に住み続けている人)よりも県外出身者であることが分かります。例えば秀岳館高校が大阪から招いた野球部の鍛治舎監督は2015,16年春夏連続ベスト4という偉業をなしとげ、熊本の野球レベルを引き上げましたし、ロアッソ熊本は県外出身者の大木監督がいなければ2部にもいない可能性が大です。バトミントン再春館製薬の監督やボルターズの監督も県外出身者です。また熊本大学が半導体に関する研究組織を立ち上げるなど変貌を遂げていますが、これは小川学長が大阪にある国立循環器研究センターの理事長を務めた経験がものを言っています。このような事実を見れば熊本原住民よりも県外、とりわけ東京、大阪在住者に優秀な人材が多いことが分かります。それは東京、大阪が熊本の10倍(言い過ぎですが)競争が激しいからです。日本は明治時代に殖産興業を行うに当たって外国の技術者を多数招聘しました。熊本の今の状態はその頃の日本と同じであり、優秀な人材を東京や大阪から連れてくる必要があります。新知事はその象徴として東京や大阪で激しい競争を勝ち抜いた人が望ましいと思われます。