国は佐川元財務省局長に求償する必要がある

学校法人森友学園への国有地売却を巡る財務省の公文書改ざんを苦に自殺した近畿財務局職員赤木俊夫氏の妻雅子氏が、改ざんを主導した同省の佐川宣寿(のぶひさ)元理財局長に1,650万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が12月19日大阪高裁であり、裁判長は「道義的責任に基づいて説明・謝罪はあってしかるべきだが、損害賠償責任を負うとは言えない」と述べ、雅子氏側の請求を棄却した1審判決を支持し、控訴を棄却しました。

2022年11月の1審大阪地裁判決は、公務員が職務中の行為で他人に損害を与えた場合、国が賠償責任を負い、公務員個人は負わないとする最高裁判例に基づき、佐川氏個人の賠償責任を否定していました。これに対し、雅子氏側は「改ざん指示は自らの保身などの目的で行われた悪質な行為で、個人の責任を認めるべきだ」と主張して控訴していました。

雅子氏は2020年3月に、国と佐川元財務省理財局長に賠償を求めて大阪地裁に提訴し、国は全面的に争う姿勢を見せていましたが、途中で態度を一転し2021年12月15日、雅子氏の請求(1億700万円の支払い)を認諾して訴訟を終結させました。国側は認諾の理由として、「赤木俊夫氏が強く反発した決裁文書の改ざん指示への対応などの業務に忙殺され、精神疾患を発症、自死に至ったことに対して国家賠償の責任を認めるのが相当との結論に至った」とした上で、「いたずらに訴訟を長引かせるのは適切でない」と述べていますが、次の手続きとして佐川氏に対する尋問が予定されており、これを阻止するのが最大の目的だったと言われています。

国の国民への賠償責任を定めた国家賠償法では

第1条

1.国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責めに任ずる。

2.前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があったときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する

1項で定められているのは、一定の場合に国または公共団体が公務員の違法行為によって生じた損害の賠償責任を負う、ということであり、2項で定められているのは、一定の場合に国は当該公務員に求償できる、ということです(ただし、「求償できる」ということであって、「求償しなければならない」とは書かれていない)。

国が国家賠償責任を負う場合、その原因となる違法行為を行った公務員個人が被害者に対して損害賠償義務を負うかどうかについては定めていないため、問題になります。これについては、最高裁判例に類似の事件で公務員個人は賠償責任を負わないとしたものがあり、これが今回大阪高裁判決の根拠となっています。最高裁判決はあくまで個別の事件に対して拘束力があるだけですが、類似の裁判では踏襲されることが多く下級裁判所は無視できません。佐川元局長が命じた業務は刑法の有印私文書偽造に該当する行為であり、起訴されるのが相当な行為でした。当時これを捜査していた大阪地検特捜部は佐川元局長を起訴する方針で捜査していたと思われますが、政府が起訴しないよう圧力をかけ、偽造の全貌を公開することを条件に大阪地検特捜部は起訴しなかったものと思われます。検察官は公務員であり検察庁も政府の指揮監督下にある関係で、当時の安倍絶頂政権下では抗うのは難しかったようです。

損害賠償は佐川元局長の分を含めて国が行うから良いとしても、佐川元局長が公文書改ざんという違法行為を命じたとすれば、国は国家賠償法1条2項に基づいて佐川元局長に損害賠償額の全部を求償するのが当然と考えられます。この場合について国賠償法1条2項では「求償することができる」となっていますが、明らかに違法行為を命じており求償しないという判断はあり得ないように思えます。佐川元局長の改ざん命令は国有地の森友学園への売却に影響を与えたと言われた安倍首相夫人を守ることも目的にしており、安倍首相や麻生財務大臣がこれに感謝し、佐川元局長への求償を阻止しているものと思われます。このうなると無法国家であり、佐川元局長への求償権の行使の判断は中立的な委員会で審査すべきだと思われます。