3か月以上の勾留は検察審査会の審査に

生物兵器製造に転用可能な機械を許可なく輸出したとして逮捕・起訴され、後に起訴を取り下げられた大川原化工機の社長らが起こした国家賠償訴訟は、12月27日に東京地裁で判決が出され、警視庁および検察による強制捜査と起訴のプロセスを違法とし、原告が東京都と国に求めていた賠償金約5億5,600万円のうち約1億6,200万円を認めました。

本件では、同社が製造した噴霧乾燥機の中国と韓国への輸出は、経済産業省令で禁止されている生物兵器製造に転用可能な機械の輸出に当たるとして、同社の大河原社長、島田取締役、相島顧問が2020年3月11日に逮捕され、同年3月30日に起訴されました。経済産業省令では輸出を禁止する機械の要件として、内部を「滅菌」または「殺菌」できることを挙げていますが、警視庁公安部は同社の噴霧乾燥機を空だきすれば、細菌類を死滅できるとして、これに該当するとしましたが、設計を担った同社の相沢顧問や社員は、取り調べの中で繰り返し「機械内部には構造上温度が上がりにくい箇所があり、細菌を死滅させることはできない」と主張しました。これに対して警視庁公安部と検察は、相島顧問らの主張を検証する実験なども行わないまま、当初の見立てに従って起訴しましたが、その後裁判が始まる前の2021年7月30日有罪を立証はできないとして起訴を取り下げました。

逮捕された大河原社長、島田取締役、相島顧問らは主張を取り下げなかったため勾留され続け、保釈されたのは約11か月後の2021年2月5日となっています。この間相島顧問には癌が見つかり、勾留執行停止中の身分で入院治療を行い、保釈後の2月7日死亡しています。

本件では事実と異なる取り調べ調書の作成や被疑者の主張を破るための検証をしなかったことなどが違法とされましたが、司法制度としては約11か月に及ぶ勾留が問題となります。

大河原社長らは逮捕後7度保釈を請求しましたが、検察官が証拠隠滅の恐れがあるとして反対し、裁判所は保釈を認めませんでした。特に悲惨なのは相島顧問で、勾留中に身体に異変をきたし、2020年9月には輸血を行ったため弁護団は緊急治療の必要性を理由に保釈を申請しましたが、やはり証拠隠滅の恐れを理由に認められませんでした。同年10月に拘置所内の医師が悪性腫瘍の疑いを指摘し大学病院を受診したところ胃癌と診断されますが、大学病院では勾留執行停止中の患者の手術や入院はできない決まりでした。そのため弁護団は入院手術をするため保釈を申請しましたが、裁判所は証拠隠滅の恐れという検察官の主張を認め、保釈を認めませんでした。同年11月になって勾留執行停止中でも入院手術が可能な病院が見つかり、手術を受けることができました。そして2021年2月5日に8回目の保釈請求が認められたのですが、相島顧問は保釈の2日後に亡くなっています。この経緯を知ると今の勾留制度の問題が浮き彫りになります。東京オリンピック贈収賄事件でも約8か月勾留された被疑者がいました。国際的にも人質司法として悪名高い日本の長期勾留制度が人の命まで奪っていることが分かります。なぜ長期の勾留になるのかというと、自白以外に有罪になる証拠がないことが原因です。これは時代劇でよく見る拷問と同じであり、長期勾留者は心身がボロボロになってしまいます。裁判で懲役刑を受けたわけでもないのに、検察官と裁判官からリンチを受けているようなものです。検察官と裁判官はともに法務省間管轄下にある公的立場であり、一般国民に対峙する者として仲間意識が強く、事実上一体化しています。最近は司法取引が拡大解釈され、取り調べの中で検察官が被疑者と取引を行い、自白が引き出されるケースが増えています(広島での選挙違反取り調べなど)。これが裁判で違法捜査と認定されればなくなるのでしょうが、裁判官が検察官に配慮し「不適正な捜査」に留めています。その結果検察官の違法捜査は益々助長されます。このように日本では、法は国民を取り締まるためのものであり、法を執行する検察官や裁判官には実質的に適用されません。

このため検察官と裁判官に任せていたら、実質的な懲役刑である長期勾留はなくなることはありません。一番良いのは国会で長期勾留を禁止する法律を制定することですが、国会議員は政治資金などでいつ立件されてもおかしくない状況にあるため、検察の不利益になる法律は制定できません。このような状況を考えると3か月を超える勾留については、勾留者は検察審査会に審査を求めることができるようにすべきだと考えられます。検察官と裁判官の違法行為を止めさせられるのは、検察審査会だけになっています。