自民党裏金事件、検察審査会は起訴基準を1,000万円に引き下げる

自民党安倍派などの政治資金規正法違反事件を調べていた東京地検特捜部は、1月19日処分を発表しました。4,000万円を超える派閥からのキックバック収入を政治資金収支報告書に記載していなかった安倍派の大野泰正参議院議員を在宅起訴、谷川弥一衆議院議員を略式起訴し、安倍派と二階派の元会計責任者を在宅起訴、大野議員の秘書を在宅起訴、二階会長および谷川議員の秘書を略式起訴としました。これ以外に1月17日に池田佳孝衆議院議員を逮捕していますので、議員の刑事処分としては3人と言うことになります。注目された安倍派幹部5人(塩谷、萩生田、西村、高木、世耕)については不起訴処分としました。逮捕が一番悪質な場合で、在宅起訴は責任が重いか容疑を否認している場合で、略式起訴は責任が軽いか容疑を認めている場合だと思われます。「頭悪いね」の言葉で話題になった谷川議員は略式起訴ですので、容疑そのものはあっさり認めているようです。起訴されたら議員辞職すると言いていますので、割と良い人かも知れません。

問題は未記載が多い安倍派(収入と支出各6億5,000万円が未記載)と二階派(収入2億6,400万円、支出1億1,600万円が未記載)の幹部が誰も起訴されていないことです。安倍派では各議員にパーティ収入のノルマ超過分のキックバックは政治資金収支報告書に記載しないよう指示していたということですから、幹部の関与があったのは確実ですが、故人である会長(細田会長、安倍会長)が指示したとされました。これが民間での出来事なら、会長がいなければ次の権限者が逮捕されています。派閥で言えば事務総長です。事務総長は派閥実務の責任者であり、政治資金収支報告書を適正に作成することについて監督責任があります。会計責任者が起訴され、事務総長が不起訴となることは一般の常識ではあり得ません。尚二階派でも不記載を会長が指示したのなら、二階会長は存命であり、二階会長自身の政治資金報告書にも3,000万円の不記載があり、秘書が略式起訴されていますから、二階会長は在宅または略式起訴が当然のように思われます。検察が忖度したか、二階派を解散することで検察と取引した可能性もあります。

これらから検察は民間人と政治家で処分基準を大きく違えていることが分かります。特に2010年の大阪地検特捜部による証拠改ざん事件以降、検察は公務員、政治家の摘発を抑制し、その分民間人を摘発して穴埋めしています。それが2018年の日産ゴーン会長逮捕であり、2022年の東京オリンピック・パラリンピック組織委員会非常勤理事高橋治之氏逮捕です。ゴーン会長の場合、容疑は有価証券報告書に報酬額を過少に記載した(本来の報酬は約20億円なのに約10億円と記載した)と言うものでしたが、約20億円と言うのはゴーン会長が将来コンサル契約などを締結した場合に得られた金額であり、未確定でした。これは日産の決算書に未払い報酬として記載されず、国税が追徴課税していないことからも分かります。この逮捕劇が起きたのは、その年の6月から司法取引制度が使えるようになったため、最初に司法取引を使ったという実績作りのためだったと考えられます。実はこれが高橋氏逮捕に繋がっています。というのは、ゴーン会長と一緒に逮捕された日産取締役のケリー容疑者が裁判で実質無罪(検察が有価証券報告書の虚偽記載を主導したとした7件のうち6件は無罪で1件のみ有罪としたが、1件の有罪は検察に恥をかかせないため)となり、ゴーン逮捕が検察の暴走であることが明らかとなっていたとき、フランス検察がフランス法違反の容疑でゴーンを国際指名手配したことにより、日本の検察は救われることとなりました。フランス検察と日本の検察は、フランス検察が捜査していた東京オリンピック・パラリンピック招致を巡る贈収賄事件の捜査で対立(日本の検察が協力的でなかった)していましたが、フランス検察が助け舟を出したことから、日本の検察はそのお礼として東京オリンピッ・パラリンピックク贈収賄事件を手掛けたものと思われます。しかし通常贈収賄事件は、公務員や政治家が関係する事件(身分犯罪)ですが、東京オリンピック・パラリンピック贈収賄事件では正規の公務員や政治家は誰も逮捕されていません。代わりに民間人の高橋氏が非常勤理事だったことから「みなし公務員」とされ、贈収賄事件の主犯とされました。これは前述の経緯からくる作られた事件であることが分かります。このように最近の検察は、出世のための実績作りとして民間人の大物を犯罪者に仕立て上げています。一方公務員や大物政治家絡みの事件は手掛けません。河井克行元法務大臣の選挙違反事件を手掛けたのは、河井議員が安倍政権の意向を受けて法務大臣として検事総長人事に介入した(稲田検事総長を黒川東京高検検事長と交代させようとした)からであり、検察と政権側(大物政治家)との権力闘争でした。ここで交代劇に政権側として関与した法務官僚や検察幹部は政権交代(菅首相→岸田首相)によりその後表舞台から消えており、検察にとって大物政治家との闘争は出世に影響することが分かります。

今回の安倍派幹部の不起訴は、こういう背景に基づいており、検察に政治家に対する適切な処分は期待できません。特に政治家の起訴基準を4,000万円以上の不記載としたことは、一般国民にとって到底納得できません。一般国民が1,000万以上資産を隠したら脱税で逮捕、重加算税間違いありません。ましてや国会議員は法律を作った責任者であり、これが法律違反をした場合には一般国民より厳しく罰するのが当然です。従って起訴基準は最低でも1,000万円に引き下げるのが妥当(100万でもよい)であり、検察審査会は1,000万円以上の不記載は起訴すべきと議決すべきだと思われます。そうなれば二階元幹事長、橋本聖子元オリパラ担当大臣、松野前官房長官、世耕前参議院幹事長らも起訴されることになります(これを防ぐために政府と検察が交渉し、起訴基準を4,000万円に設定した可能性大)。検察審査会の委員は、不起訴不当議決は不起訴妥当議決と同じ効果(検察は再度不起訴にして処分を確定させる)となり、意味がないことを理解しておいて下さい。