損保ジャパンは市役所みたいな会社

1月26日金融庁から業務改善命令を受けた損保ジャパンの記者会見がありました。私はネット中継を見ましたが、昨年9月の記者会見とは相当変わった印象を受けました。それは桜田会長の物言いが大きく変わっていたせいだと思われます。前回は「俺を誰だと思ってるんだ。天下の桜田だぞ」という態度でしたが、今回は裁判で敗れた被告人のような態度でした。プライドは言葉の端々に見せていましたが、「もう何を言っても仕方ない」という諦めが見えました。「引責辞任か?」という質問に対して、「そう取られるのは仕方ないことだ。皆さんの解釈に任せます。」というような言葉が象徴的でした。桜田会長は3月末でSONPOホールディングの会長ばかりでなく、損保ジャパン取締役その他のSONPOグループの役職一切を辞任し、相談役や顧問にも就かないということですから、SONPOグループの権力一切を削がれることになりますので、普通のおじさんとなります。それまでにはまだ2か月以上ありますが、これが決定すると周囲の態度は一変しますから、既にSONPOグループ内では生ける屍扱いだと思われます。そのせいか記者会見での発言は極めてまともだったと思われます。桜田会長はSONPOグループの天皇と言われてきましたが、経済同友会代表幹事を務めたことでも分かるように、日本の経営者の中でも優秀な人だと思われていました。よくSONPOグループは早大閥と言われますが、早大卒は桜田会長ぐらいで、今度会長になる奥村氏は筑波大卒ですし、現社長の白川氏は立命館大卒、新社長の石川氏は中大卒と学閥はないように見えます。それにパーパス経営や保険業務のIT化とかの理念は先見の明があるように思われます。しかしこれらは実体が伴っておらず、桜田氏は理念先行型の経営者であったことが伺えます。

私が当日の記者会見を聞いて疑問に思ったことは以下の3つです。

1つは、SONPOホールディングの社長であった奥村氏が会長に昇格するのはおかしいということです。SONPOホールディングの経営の最高責任者(CEO)は桜田会長でしたが、業務執行の最高責任者(COO)は奥村社長であり、損保ジャパンの不正に気付き対処する直接的責任は奥村社長にありました。従って奥村社長の責任は重大であり、桜田会長と共に辞任するのは筋だと思われます。

2つ名は、SONPOホールディングの社外取締役の責任に全く触れられていないことです。SONPOホールディングは、取締役12人中9人が社外取締役であり、この割合は日本でもトップクラスだと思われます。社外取締役を増やすのは、社内のしがらみがない取締役が経営を客観的に監視するためですが、全く機能していなかったことが分かります。社外取締役は取締役会に上がってこなかったからと言うのでしょうが、BM事件は新聞雑誌で広く報道されており、自らリスクに気付いて取締役会で取り上げるべきことでした。SONPOホールディングの社外取締役は桜田会長の箔を付けるために集められたイエスマンだった可能性があります。それを感じたのは、記者会見での指名委員会委員長デービス氏の発言からでした。発言はほぼSONPOホールディングか損保ジャパンの広報担当者が書いたと思われる文書の棒読みであり、指名委員会委員長になるだけの資質を感じさせる言葉は皆無でした。それに桜田会長は昨年9月の記者会見では、「私の進退については指名委員会が決めることだ」と言っていましたが、今回の桜田会長の退任は、桜田会長がデービス氏に申し出、それをデービス氏(指名委員会)が承認して決まったということですから、指名委員会は桜田会長の人事案の追認機関であることが分かります。これがSNOPOジャパンの社外取締役の実態をよく表しているように思われます。今の社外取締役は全員退任の上、社外取締役の構成から再検討する必要があるように思われます。

3つ名は、石川新社長は準備不足の感が拭えないことです。石川新社長は昨年9月に常務から新社長に内定していますから当然でもあります。あの時点では桜田会長が人事権を持っていましたから、桜田人事だと思われます。印象的には人柄重視の白川社長選任と同じ人選だと思われます。結局奥村会長と言い、石川社長と言い、桜田会長人事であり、SONPOグループは桜田会長路線が継続することになると思われます。本当にSONPOジャパンを大きく変えるのなら、これまで反主流派だった人たちを経営陣に据えると言うのが定石ですが、その気はないことが伺えます。

記者会見を見た人たちは、役員もたいしたことないし、「SONPOジャパンてどういう会社?」と思っている人が多いと思います。私は損保ジャパンの近くで仕事し、損保ジャパンの幹部も何人か知っており、本社にも何回か行ったことがありますので、分かり易く説明します。損保ジャパンは一言でいうと市役所みたいな会社です。損害保険は代理店が販売し、損保ジャパン本体には販売部隊はありません。損害の査定や事故調査も外注です。本体は何をやっているかと言うと、代理店の管理、外注先の管理、保険金の支払、保険金の運用、保険の企画など主に管理・企画業務です。要するに損害保険と言う税金に似たお金を集め、分配している会社と考えればよいと思われます。こういう会社の特徴は、直接営業部門がないため社員の利益に対する貢献が分かりにくく、実力主義人事が行われないことです。SONPOホールディングの記者会見を見たら、奥村新会長や白川社長、石川新社長には商社などの社長に感じられる迫力が感じられなかったと思われます。要するに損保ジャパンは日本有数の高給が保障された市役所のイメージです。制度上高給が保証されていますから、みんなガツガツしていないし、記者会見に出てきた人たちで分かるように人の好いおじさんが多い会社です。