賃上げと同時に利益配分の見直しが必要

今年の春闘では昨年を上回る賃上げが実現しそうです。大手企業は5%を上回る賃上げを実施すると思われます。これは物価水準が上がったことや円安の影響でドルベースで見た日本の賃金が安くなり、海外子会社や海外の同業他社との賃金格差が競争上放置できないほど開いてきたためだと思われます。ユニクロが昨年大幅な賃金改定を行いましたが、この理由は日本人社員と海外社員との賃金のアンバランス(海外子会社の方が高い)の是正でした。日本の大企業でも国際化が進んだ企業は、今後ユニクロと同じ理由で賃上げを行うことになります。そうなると国内企業も競争上賃上げを行わないわけにはいかなくなります。こうして競争的賃上げが今後進むことは間違いないように思われます。

このような賃上げを継続的なものにするためには、企業の利益配分の見直しを行い、利益が計画を上回ったらその利益の一定割合を従業員に分配する仕組みをルールとして確立する必要があるように思われます。

1月29日のソウル綜合ニュースに韓国のサムスン電子が前年の業績と連動して事業部ごとに支給される超過利益成果給(OPI)の支給率を決定し、社内向けに発表したと言う記事がありました。 OPIは事業部の業績が年初の目標を上回った場合に超過利益の20%を限度に最大で年俸の50%を毎年1回支給するもので、今年のOPIの支給率は、スマートフォン事業などを手掛けるモバイルエクスペリエンス事業部が年俸の50%で最も高く、テレビ事業を担当する映像ディスプレー事業部は年俸の43%、昨年は7%だった生活家電事業部と医療機器事業部は12%。一方、昨年までほぼ毎年年俸の50%がOPIとして支給されていたデバイスソリューション(半導体)部門は、景気低迷の影響で半導体産業が落ち込み、昨年第1~第3四半期の累積赤字が12兆ウォン(約1兆3,300億円)を上回ったことから支給が見送られたとなっています。

これ以外に毎年上・下半期に1回ずつ業績に基づき所属事業部門と事業部の評価を合わせて最大で基本給の100%まで支給される目標達成奨励金(TAI)制度があるということですから、利益が多ければ所定年俸の倍以上貰える制度になっています。これなら従業員がやる気になるのはもっともであり、サムスン電子が躍進した大きな原因だと思われます。他の韓国企業も同様な制度を導入していると予想され、韓国企業躍進の原因と言えると思われます。

日本でも東京エレクトロンなどの半導体関連企業は、サムスン電子や台湾のTSMCとの人材獲得競争もあり、サムスン電子に近い利益配分制度を導入しているように思われます。東京エレクトロンの2023年3月期の社員平均年収は約1,399万円となっており、サムスン電子の2022年度の平均年収約1,440万円と遜色ありません。2023年のボーナスも東京エレクトロンは平均約546万円となっていますし、冬だけに限れば同じく半導体関連装置企業であるディスコが約356万円でトップとなっています。これだけもらえれば社員は更に頑張りますから、日本の半導体関連産業は強いはずです。半導体産業は好不況が交互に来る産業であり、売上が落ち込む時代もあるでしょうが、こんな良い思いをしていればその時の再来を夢見て頑張れます。儲かっても儲からなくても年収は余り変わらないより刺激があって企業の活力に繋がると思われます。

今の日本にはこれまでの安定重視の賃金政策から韓国や日本の半導体産業のような利益連動型賃金制度が必要なっており、利益配分制度の見直しが必要になっています。これにより経営側の施しではなく社員の権利としての継続的かつ大幅な賃金アップが可能となります