熊本知事選木村敬候補の公約は30点
熊本県知事選挙が3月7日に告示されました。4名の候補者が届け出たと言うことですが、実質的には前副知事の木村敬氏と元熊本市長の幸山政史氏の争いになりそうです。
そこで両者の公約を検証してみました。内容的には副知事を約4年務めた木村氏の圧勝と言えると思われます。木村氏の内容は県庁内の各部署で検討されてきたと思われる内容が網羅されており、幸山氏が太刀打ちできるはずがありません。従って幸山氏には同情の余地があるのですが、幸山氏も熊本市長退任後約10年間熊本県知事を目指してきたのなら、もっと具体的なビジョンを持っていないといけないと思われます。これでは単に熊本県知事になりたいだけの人のように見えます。
こういうわけで公約を木村VS幸山で検証すれば木村氏の圧勝なのですが、実は木村氏の公約を採点すれば30点です(幸山氏の公約は採点できない)。どうしてこんなに低くなるかというと数値目標(どこまでやるか(目標値)といつまでやるか(期限))がないものが多いからです。これではいつか実現すればよいことになって、希望や夢になってしまいます。こういう内容が大部分になっているため30点という低い評価となりました。
以下は30点というポジティブな評価の内容です。
公約は「県民への10の約束」の形をとっており、各約束の詳細な説明が付いています。
10の約束の標題は、
- 県民の命と暮らしを守る!
- 不退転の決意で【渋滞解消】を実行!
- 安心して結婚・出産・子育てできる社会を実現!
- 日本一の健康長寿社会を実現!
- 世界に伍する質の高い教育を実現!
- 「食のみやこ熊本県」の創造!
- 県内すべてにTSMC効果を波及!地域の課題・経済にコミット!
- 熊本経済のイノベーションを実現!
- スポーツ、観光、文化芸実を戦略的に振興!
- SDGs先進県として責任ある「くまもと新時代」行政
となっています。まるで商業広告を見ているようであり、電通か博報堂の社員が考えたもののように思えます。従ってこれらの標題は無視してよくて、問題はその内容です。内容は詳細であり、こちらは県庁内の各部署で検討されてきた政策の寄せ集めのように思われます。これらの審査ポイントは実現可能性と評価可能性になりますが、ほとんどが実現に向けられたものではなく課題として挙げられたものです。これでは意味がないので無視することになります。その結果、意味のある公約は次のものに絞られます。
1.県民の命と暮らしを守る
(1)防災力の強化
「九州における広域防災拠点化を推進」
能登地震をみれば分かりますが、自衛隊は戦闘部隊であり増加する自然災害に即応できる専門部隊が必要だと考えられます。それは市町村や県単位ではなく道州制の単位にあれば十分です。例えば九州なら熊本に「九州自然災害即応センター」を置き、九州全域の地震や洪水などの自然災害に即応できる要員と必要機材、物資などを備えた拠点とします。熊本県では2014年にこの構想を策定し、2023年6月には本部機能を置く7階建ての防災センター建物が完成しています。その他新設された熊本市民病院は免震構造を採用していり地震時にも手術が可能です。従って今後は国にこれを認定してもらい予算を得て内容を充実する必要があります。木村氏は熊本県でこの構想の策定に関わり、総務省でも消防庁広域応援室長を歴任しているので、国を説得できる可能性があります。従って実現可能性は高いと考えられます。
(4)熊本の宝である水の確実な保全
地下水利用の影響を最小化するためには、①地下水利用量の制限、②地下水以外の水の利用促進、③排水の再利用、しかないとの前提で、
〇半導体関連産業の集積に伴うインフラとして、地下水のみに頼らず、竜門ダムを水源とする有明工業水道の未利用水を半導体工場で利用するための施設を整備する。
としています。木村氏は候補者討論会でも半導体工場の水は竜門ダムと河川からの水で賄うようにすると述べています。地球の温暖化に伴い大干ばつに襲われる可能性は排除できず、その場合熊本では地下水を熊本市民の飲み水と半導体工場で取り合いになると予想されます。そうなると当然市民の命が優先しますから、半導体工場排斥の動きともなりえません。それを防ぐためには半導体工場の水は工業用水で賄う体制を早急に作り上げる必要があります。先ずは竜門ダム導水路を昼夜突貫工事で早急に完成させる必要があります。少なくともTSMCとソニーの第2工場はその水を使うようにする必要があります。北海道のラピタスも工業用水を利用する計画であり、TSMCやソニーの工場も地下水である必要はありません。
2.不退転の決意で【渋滞解消】を実行!
〇県道大津植木線の6車線化
これも昼夜兼行で短期間に完成する必要があります。TSMCの第一工場は昼夜兼行工事で約1年8カ月で完成させていますので、道路ならこれ以下で完成させられます。中国は多くのプロジェクトを日本の半分の期間で完成させており、日本もできるはずです。今後人件費や物件費が上がることを考えると、昼夜兼行でも総工事費は変わらないと考えられます。
〇都市高速道の建設促進
都市高速も同じで、完成期間の短縮が求められます。尚都市高速の完成を優先するため他の道路計画は先延ばしします。
〇JR空港線の建設
これも建設期間の短縮が肝です。昼夜兼行で8年の工事期間を4年に短縮する必要があります。わずか6.8kmですよ。それに人件費や物件費の上昇を考えれば、こちらの方が総工事費は安くなります。
〇中九州横断道路や九州中央横断道路の促進
熊本に設置する「九州自然災害即応センター」が機能するためのインフラとして国に促進を働きかけます。
5.世界に伍する質の高い教育を実現!
これは熊本にとり重要なテーマだと思われます。それは文部省が実施した全国学力テストで熊本の小中学生の結果は下位にあるからです。たぶん30数位だと思われます。教育レベルは所得に比例すると言われていますので、この最大の要因は熊本県民所得が低い(2020年全国40位)ことになると思われます。所得は短期間には上げられませんが、子供の学力はやりようによっては短期間に上げられます。木村氏は東京の有名私立中高一貫校から東大に進学しており、学力を上げる知見があると思われます。この公約は木村氏の知見が生かされる分野ですが、そのような具体策は見られません。県庁の教育担当部署の企画をそのまま書いただけのものとなっています。ここは木村知事の知見を活かした有効な具体策を掲げるところです。
私は次のことを提案します。
中学・高校に関して
・私立学校と公立学校の役割分担を明確にする
私立 顕著な才能が現れている子供の教育を担当
公立 それ以外の子供の教育を担当
・小学校で顕著な才能(学力、スポーツ、芸術など)が発現した子供は、優れた才能教育を実施する私立中学に進学できるようにする。
・私立中学も義務教育であることから無償とする
・私立中高一貫校を増やし、東京並みの有名校を養成する(私立高校も無償化)
職業高校に関して
・職業高校から大学に編入できる体制を整備する。
例えば高校商業科で税理士や公認会計士の資格取得に必要な複数の科目試験に合格していれば県立大学への推薦入学を認める(県立大学では受け入れのための専門学部を設置する)。
県立大学に関して
・半導体の権威である東大黒田教授が理事長に就任されることから、変革が期待される。具体的には新設されるデータサイエンス学科は半導体関連のデータ解析に特化することが考えられます。データサイエンティストの場合、ある業務に深い専門知識がないと有効な分析はできないと考えられます(例えば臨床試験データの解析には薬学や医薬品に関する知識が欠かせない)。その他半導体業界で求められる専門家(熊本大学が養成する人材以外)を養成する学部の新設が考えられます。
・黒田理事長には熊本県庁の半導体産業政策の司令塔的なポジションを兼務して頂く。
・黒田理事長には熊本大学半導体教育開発センター特別教授も兼務して頂く。
・報酬はこれら全部で年間5,000万円でも良い。
8.熊本経済のイノベーション!
半導体関連産業の育成
〇新たに誘致が決まった第二工場の迎え入れ、更なる第三工場の誘致にも全力を尽くす
第三工場については、福岡県と大阪府も候補として報道されています。これはTSMCが大学との共同開発や研究を狙っているから出てくる報道のように思われます。福岡は九州大学とTSMCが協力を強化しているとの話がありますし、大阪には2022年にTSMCが研究所を設置しています。これは京大や阪大の人材を狙ったものです。先端半導体の生産については、研究開発と一体として進める必要があるのかも知れません。そうなると熊本県としての強みは、第一・第二工場があることであり、第三工場を熊本に誘致するためには、第一・第二工場の隣地を第三工場用地として確保しておくしかないと思われます。県として先行取得しておくことが考えられます。
最後に木村氏の公約に欠落している重要な公約を指摘したいと思います。それは県民所得を全国20位台にすることです。現在熊本は40位(2020年度)であり、全国有数の貧乏県です。蒲島知事はこの事実から県民の目をそらすため、幸福量というわけの分からない指標(言葉)を用いていましたが、幸福をもたらす最大のものは所得であり、木村氏は真正面から県民所得増加の目標値を掲げて欲しいと思います。
教育についても同じです。全国学力テスト20位以内を目標に掲げるべきだと思います。熊本県教育委員会は、前回の3か年計画では全国平均を目標に掲げていましたが、今の3カ年計画では目標を放棄しています。これでは熊本の子供があまりにも可哀そうです。県民所得を将来的に上げていくには、子供の学力を向上させるしかありません(低所得=低学力が今の熊本の現状。貧乏は相続される)。