スペースワン社は経産省の傀儡企業

3月13日民間ロケット会社による日本初の衛星打ち上げと謳われたスペースワン社のロケット「カイロス1号」の打ち上げが、これも民間発射場の「スペースポート紀伊」で行われ、失敗に終わりました。

私もネットのライブ中継で見ましたが、発射数秒後、発射場近くの山の少し上で白い煙の塊が発生する場面を目撃しました。あとで分かったことですが、あれはロケットに組み込まれた破壊指令による爆発だったとのことです。これまでいくつかロケット発射失敗を見てきましたが、今回の失敗が一番惨めだったように思われます。他のケースではロケットは白い煙の筋を引いて飛行したあとで爆発していましたら、飛行中に異常が生じたのだろうと何となく納得感がありました。しかし今回の場合、飛んだと言うよりは山の上まで持ち上げたという感じであり、本当にロケット発射だったのだろうかと違和感が残りました。

その後の失敗記者会見で違和感は更に強まりました。それは記者会見席の中央に座っていたスペースワン社の豊田社長がこれまでJAXAのロケット打ち上げ後の記者会見に現れた責任者とあまりに雰囲気が違っていたからです。どう見てもロケットエンジニアには見えませんでした。エンジニア特有の深い知見が顔に現れていないのです。あの顔は文系出身者の顔です。そこで出資企業のお偉さんかなと思って調べてみたら、元経産省経済産業審議官であることが分かりました。1949年生まれとなっていることから今年75歳となります。豊田社長は発言の中で「スペースワンとしては失敗と言う言葉は使いません」と述べましたが、この言葉にも違和感があります。JAXAの失敗会見では開発者が悔しさを言葉の端々に表し、中には記者との質疑の中で涙を流す人もいました。これがロケット技術者の本来の姿だと思います。豊田社長のように割り切った前向きな発言はできません。これは評論家の言葉です。

豊田社長の発言の後に経産省の局長がオンライン出席し、斎藤大臣のコメントを発表したことから、スペースワン社の実体が見えてきました。スペースワン社の株主は

キヤノン電子、IHIエアロスペース、清水建設、日本政策投資銀行、紀陽銀行、合同会社K4 Ventures、太陽グループ、三菱UFJ銀行、アズマハウス、オークワとなっており、民間企業の外形をとっていますが、事業の中心となる親会社が見当たらないことから、経産省から要請を受けたロケット関連企業と発射場がある和歌山の企業がわずかばかり引き受けた偽装民間企業だと思われます。実体は民間のロケット事業企業を育成したい経産省の傀儡企業です。従って社長は元経産官僚だし、ロケットの製造開発資金は経産省から出ているものと思われます。だから豊田社長に悲壮感が全く感じられないのです。

これは先端半導体開発企業ラピダスと同じパターンです。ラピダスの場合も出資先はキオクシア、ソニーグループ、ソフトバンク、デンソー、トヨタ自動車、NEC、NTTおよび三菱UFJ銀行の計8社ですが、出資額を見ると三菱UFJ銀行(3億円)以外の7社は10億円で並んであり、お付き合い出資であることが分かります。その後ラピダスの事業に要する資金(3000億円)は経産省が出しており、出資企業は一切出していません。これからラピダスは民間企業を装った経産省の傀儡企業であることが分かります。

スペースワン社もラピダスと同じパターンで進めようとしているようですが、少なくとも国民が期待できるロケット専門家を経営者に据える必要があると思われます。今回の打ち上げには、まだ1回も成功していないロケットなのに政府の衛星を搭載するなど、安直さが漂っています。今後も続けるなら体制の抜本的見直しが必要だと思われます。