工場の東京周辺県集中が加速する

帝国データバンクの調査によると、去年1年間の企業の転入超過について、神奈川県が他の都道府県を大きく引き離して全国トップになったとのことです。去年神奈川県内へ転入した企業は271社、転出した企業194社で、転入超過数は77社となっています。2位が埼玉県の29社ですから圧倒的な1位です。コロナ蔓延により在宅勤務が進んだことから本社のあり方の見直しが進み、都内からの移転が活発になっています。これまでは企業規模が大きくなるとステータスとして都内に本社を移す企業が多かったのですが、在宅勤務が増えると従業員の居宅が東京都の周辺にあることが多く、本社が従業員にとっては不便な存在になっていることに企業が気づき始めたように思われます。銀行や生損保、商社、サービス業などの企業にとっては、東京が売上や従業員の勤務場所のトップを占めることから、都内本社が当然と考えられます。しかしメーカーの場合、主力工場は地方にあり、従業員数も地方の方が多いことから、本社が東京にある必要は殆どありません。役員や幹部社員が都内の本社にいる割合が多くなると、工場の実態を離れた意思決定が多くなります。都内に勤務する社員は自社がメーカーであることを忘れてしまうくらいです。こうして30年も都内に本社を置いたメーカーは業績不振となることが多いように思われます。

横浜には2010年に日産が東京銀座からみなとみらい地区に本社を移転しましたし、2022年にはいすゞ自動車が創業の地である東京大森からみなとみらい地区に移転しています。両社は神奈川に工場や開発拠点があり、これらとの一体感を出すためのように思われます。昨年は東京渋谷に本社を置いていたボッシュジャパンが横浜市都筑区に開発拠点も設け本社機能も移しました。富士通も本社機能の多くを川崎の事業拠点に移しており、メーカーが神奈川の工場や事業拠点に移転する動きが見て取れます。優良メーカーが多いのは愛知県と京都府ですが、ここのメーカーは大きくなっても東京に本社を移していません(トヨタ、デンソー、京セラ、ニデック、村田製作所など)。このことから今後東京に本社を置くメーカーが地方の主力工場や開発拠点へ本社を移転する動きが増えると考えられますが、一方では工場の新設を関東周辺に限るメーカーも増えると考えられます。そうすれば本社を移転する必要がなくなるからです。そして関東周辺に工場があれば行くのに便利なことや関東周辺は従業員の生活インフラが充実しています。今後日本の人口は急激な減少局面となりますが、この場合新たなインフラ作りは期待できず、工場はインフラが充実しているところに集中するのがよいことにいなります。そうなると工場立地は関東や近畿、中京地区が有利です。このことが昨年神奈川県が企業の転入超過1位になった原因です(2の埼玉もしかり)。その結果今後日本企業が地方に大きな工場を新設する動きは少なくなると考えられます。