次に都内から本社移転するのはNECと三菱自動車

東京商工リサーチによると、新型コロナウイルス感染が広がった2020-2023年に、本社および本社機能を東京都内から都外へ移転した企業(以下、転出企業)は、1万2,822社で、コロナ禍前に比べて2倍以上増え、東京都外から都内に移転した企業(以下、転入企業)は9,254社で1.5倍となっており、都外への転出の動きがみられるということです。
転出企業と転入企業の割合は、コロナ禍前の2017-2020年は転入50.3%、転出49.6%とほぼ同水準でしたが、コロナ禍中の2020‐2023年は、転出58.0%、転入41.9%と転出の割合が約16%上回っています。社数で言うと3,568社の大幅な転出超過で、脱‟都内“の傾向が強まっていることが分かります。ただし東京都からの転出先では、最多が神奈川県(3,663社)、次いで埼玉県(2,515社)、千葉県(1,914社)と首都圏が続いており、地方へ移転しているわけではありません。
転出の理由としては、コロナ禍の外出自粛などで東京の本社へ通えなくなったこと、在宅勤務などの新しい働き方が定着したこと、その結果コストの高い東京都内に本社を置く意味が薄れたことなどが上げられます。

もう1つの特徴としては大手メーカーが都心の本社を移転し始めたことです。最近では東芝が5月16日に発表した中期経営計画に、東京・浜松町の本社を、製品の企画や開発を行う事業部門の拠点がある川崎市へ2025年9月末までに移転する計画を盛り込んでいます。現在本社がある浜松町の東芝ビルは、東京芝浦電気から東芝へ社名変更した1984年に入居しており、約40年ぶりに元本社が置かれていた川崎に出戻ることとなります。経営再建中の東芝にとっては必然の本社移転と言えます。

富士通は今年9月末までに、経営管理部門や事業部門が入る東京・汐留の本社を、AI(人工知能)の研究開発部門などがある川崎市へ分散移転します。コロナ禍以降、テレワーク中心の業務を続けており、出社率は現在も2割程度であることを理由としています。

オリンパスは今年4月、東京・新宿から八王子市の研究開発拠点へ本社を移転しました。内視鏡など医療用機器の技術者と営業社員のコミュニケーションを密にするということを理由としています。

横浜ゴムは23年3月、東京・新橋から神奈川県平塚市の生産拠点へ本社を移転しましたし、日本ミシュランタイヤも2023年8月、東京新宿から群馬県太田市のR&Dセンターに、ボッシュジャパンも2024年5月、東京渋谷から横浜市都筑区の開発拠点近くに本社を移転しています。

いすゞ自動車は2022年5月、創業の地東京大田区大森の自社ビルから横浜市西区の賃貸ビルに本社を移転しました。これを聞くと業績悪化を勘ぐりますが、業績は絶好調であり、本社を主力工場がある藤沢市に近づけることが目的のように思われます。

メーカーはこれまで上場すると、あるいは規模が大きくなると東京都内に本社を移転する傾向が顕著でしたが、よく考えるとメーカーの生命線である主力工場や開発拠点は地方にあることが多く、東京都心に本社を置くことは、これらの工場および開発拠点との意思疎通が疎かになり、メーカーとしての体質が弱体化する危険があります。現在日本一のメーカーであるトヨタは愛知県豊田市から本社を動かしていませんし、愛知県に本社がある大手メーカーは元気な企業が多くなっています。またニデック、京セラ、村田製作所、オムロンなど世界的に有名なメーカーが多い京都の企業も本社は京都から動かしません。やはりメーカーは工場や開発拠点がある場所や地域に置くのが企業発展の要諦であり、現在行われている東京都心からのメーカー本社の移転はこれに沿った流れのように思われます。

だとすれば、次に東京都心から本社を移転する企業はNECと三菱自動車が有力です。NECは東京都港区芝に本社を構えていますが、業績は伸び悩みと言ってよく、長期的に都心に本社を構えるメーカーのなれの果ての代表例と言えます。NECはいつ東芝のようになってもおかしくなく、そうならないためには東京都港区の本社を処分し、玉川事業場や府中事業場に移転することが考えられます。

三菱自動車も歴史は古いですが、将来が危ぶまれており、東京都港区芝浦(田町駅近く)に本社を置いておく状況ではないと思われます。やはり愛知県岡崎市の主力工場近くに移転するのが生き残り策となります。