トヨタ認証不正で日野・三菱ふそう統合に理由なし

トヨタ、ホンダ、マツダ、スズキおよびヤマハ発動機の5社が型式指定の認証を取得するに当たって不正をしていたことが明らかになりました。全38車種で不正が行われ、うち6車種が現行生産車だということです(32車種は現在生産されていないが流通はしている。対象台数は約500万台。)。

型式指定とは、自動車メーカーが研究開発したクルマを製造ラインで大量生産する際、国が定めた各種の保安基準等をクリアしていることを示す大量生産許可証のようなもので、製造した車両について個別試験を行う必要がなくなりますから、自動車メーカーが市販するに当たっては、必ず取得しなければならない(取得しないと採算が合わない)ものです。

5社でどのような不正が行われていたのかというと

トヨタ)

・前面衝突試験でエアバックをタイマーで作動させた(規定より厳しい条件とした)。

・歩行者頭部と脚部保護の試験で規定と異なる(規定より厳しい)衝撃角度を用いた。

・後面衝突試験で規定と異なる(規定より厳しい)台車重量を用いた。

・積荷移動防止試験で規定と異なる(規定より厳しい)ブロックを使用した。

・左右片側試験の結果を両側に使った(結果は変わらないことを確認済みだった)

・エンジン出力試験で出力点の制御調整を行った。

ホンダ)

・騒音試験で試験車両の重量設定が規定を上回る条件で試験をした。

・ガソリンエンジンと電動機の最高出力および定格出力試験で、試験結果の出力値とトルク値を書き換えた。

・ガソリンエンジンの出力試験でオルタネーターを未作動で試験を行った。

マツダ)

・前面衝突時の乗員保護に対する認証試験で、エアバックを車載センサーの衝突検知による自然起爆ではなく、外部装置で起爆させていた。

・エンジンの出力認証試験においてエンジン制御ソフトウエアを書き換えて対応した。

今回の不正につき豊田会長も認証規定より厳しい条件でやっていても不正なのかと言っていますし、報道の中にも日野自動車(日野)やダイハツの認証不正とは全く違うという意見が聞かれます。例えば自動車評論家の国沢光宏さんは、

「後ろからの衝突実験では、国が定める規定では1100kgのものがぶつかった場合に車体が耐えられるのかを調べます。しかしトヨタは1800kgで試験を行ってクリアをしたということなんですね。より厳しい基準でクリアしているのに不正とされたということです。これはどのように見ている? (国沢光宏さん)これは追突の燃料漏れを試験する内容です。日本で走っている車は小さいので1100kgでやるんですけど、アメリカとかは大きな車が多いので重い車でやるんですね。重い車で燃料が漏れなければいいということで。トヨタはアメリカにも車を売っているので1800kgでやったと。これで問題なかったので、本当は1100kgとかやんなきゃいけないんですけど、時間がないとか、認証ってすごく時間がかかるので締め切りがあるので、とりあえず1800kgのデータを出してしまったと。これが不正・改ざんということになります。1800kgでクリアしているのであれば、1100kgも普通に考えるとクリアするのではないかと感じるが、それは違う?」と述べて、厳しい基準で取得したデータを使っているのだから不正とは言えないのではないかと述べています。しかしこれはトヨタが報告した不正の一例に過ぎず、トヨタでも他社でも明らかに不正な試験が行われています。また上記例でいえば、認証規定に定める1,100kgで試験をしてから(データをとってから)、1,800kgで試験を行うべきことは自明のことです。これは学校のテストで設問がおかしいと設問を変えているのと同じであり、不正解となります。従って全体としては日野やダイハツの認証不正と変わらないと言えます。

6月3日のトヨタの記者会見では、豊田章男会長の歯切れの悪さが目立ちました。これまで日野やダイハツの認証不正の記者会見では、トヨタではありえないことと胸を張って言っていましたから当然です。しかしTPS(トヨタ生産方式)と違って業務が定型化されていない認証試験(開発・試験全般と言っても良い)においては、個人の技量やモラルに依存する部分が大きく、不正が入り込む余地があるのは明らかです。このような状態でトヨタでは不正はないと言い切った豊田会長が異常だったように思えます。豊田会長もやっとこれが分かったようで、記者会見では不正を撲滅するには時間が掛かる(業務の標準化、可視化から始めないといけない)と言っていました。

豊田会長がこのことに気付いたとすれば、日野と三菱ふそう・トラックバス(三菱ふそう)との統合は考え直す必要があるように思われます。豊田会長は、日野の認証不正が生まれた体質は、日野独自ではまたはトヨタが協力しても改善できないと考えてダイムラー傘下の三菱ふそうとの統合を決断したものと思われますが、この考え方をとればトヨタでも認証不正が明らかになった以上トヨタもダイムラーと統合しなければならないことになります。

日野は三菱ふそうと統合せずトヨタと一緒に認証業務を改善していく、あるいは世界に通用する日本のトラックメーカーを作るためにいすゞ自動車との統合を目指した方がよいように思われます。