東北大の認定で卓越大ブランド崩壊

政府が進める「国際卓越研究大学」(以下卓越大)の第1号に、今年中にも東北大学が認定され、年間約100億円の助成金が25年間交付されるとの報道です。

卓越大学の制度は、日本の大学の研究力が低下していることから、高い基準を満たした大学を卓越大学に認定し、世界トップレベルの研究力を持つ大学に育成することを目的にしています。2022年度から公募が始まり、文部科学省が設けた有識者会議の審査を経て、昨年8月東大・京大・東北大学の中から東北大学が最終候補に残っていました。

東北大学の計画では、

・世界で注目度の高い論文の割合を約2.5倍にする。

・研究室の数を今の倍以上の1,800ユニットにする

・博士課程学生数を現在のおよそ倍の6,000人に増やす。

・学部の留学生比率を2025年度に2割にする

・外部から得られる収入を現在の10倍以上(約86億円→約959億円)に増やす。

などの高い数値目標が掲げられていることが評価されたようです。

これを見ると計画倒れになる可能性が高いと思われます。実際に建築する建物の設計者なら建築不能な設計であることが直ぐわかる設計書(計画書)になっています。これを審査した有識者会議のメンバーに実務家がいなかったことが伺えます。

そもそも日本で世界の有力大学と互角に戦える資質を持った大学は東大と京大のみです。東大京大の定員は毎年約5,000人であり、全大学受験者約50万人の約1%となります。しかし合格者の多くは私立中高一貫校で受験技術を磨いて合格したいわゆる受験秀才ですから、研究者に必要な地頭の良い人材は合格者の2割約1,000人程度です。このうち研究者になるのは半分としても500人であり、優秀者から順に東大京大に残ります。その結果東北大学には東大京大に残れなかった研究者が回ることになりますが、それも数十人です。ここから分かることは、研究ユニットを1,800にしたら多くが有能でない研究者で占められることになり、世界的に注目される研究成果など出せるはずがないということです。また博士課程学生数を6,000人にすると言うのも無理があります。博士課程に進んでも就職先がない現実を改善しない限り、博士課程進学者は今以上には増えません。研究ユニットを1,800にして吸収するつもりかも知れませんが、こうなると研究ユニットが凡人の集まりとなってしまいます。外部収入の10倍化については稼いだことのない人の戯言としか言えません。これを承認した有識者会議メンバーの顔を見てみたいものです。

東北大学の地位は年々低下しており、偏差値で言えば60前後、受験者の上位15%程度の学生が入学していることになります。今では首都圏の国立大学である筑波大学や横浜国立大学、千葉大学の学生の方が学力は高い状況です。

卓越大第1号への東北大学の認定は、卓越大のブランドを崩壊させて、卓越大制度の失敗を確定的にしたと言えると思われます。

日本に優秀な大学を作るなら、東大京大は授業料を無償化し、卓越大の助成金に当たる金額を予算増額し、野放しにすることです。ノーベル賞はその性格上管理された研究からではなく、野放し状態の研究からしか生まれません。