ラピダス出資企業の「濡れ手に粟」は許されない

北海道千歳市にラピダスが線幅2nmの先端半導体工場の建設を進めています。半導体製造技術0の状態から始まったプロジェクトとしては異例の進捗状態にあります。その原因は、製造技術は米国IBMが開発済みであり、ラピダスはそれを移植するだけになっているためです。米国IBMは以前から自社での半導体製造を目指し製造技術の開発を行ってきました。韓国サムスン電子もIBMから製造技術を導入しました。しかし現在半導体の製造は台湾TSMCと韓国サムスン電子という2大巨頭が世界の市場の大半を抑えており、IBMは自社製造は断念したものと思われます。そこで開発費を回収するために、かって繁栄を誇った半導体事業の再興を夢見る日本に声をかけ、技術の提供を申し出たものと思われます。半導体の製造には巨額の設備投資がかかりますから、それを日本に負担させ、IBMは技術料と生産した半導体の売上に応じたロイヤリティを徴収するものと考えられます。

ラピダスは来年11月に試作設備を完成させ、以降試作に取り掛かることになっており、これから試作費および本格的生産設備費用として5兆円近い資金がかかると言われています。試作設備の建設費用およびそれまでの運営費用として経産省から約9,200億円の補助金が交付されています。従ってラピダスは収益として補助金約9,200億円を計上し、この中から試作設備の建設費用や生産設備費用および運営費用などを支出し、黒字決算になっていると思われます。問題は試作開始以降の費用約5兆円であり、さすがにこれを全部経産省が補助金として交付するのは無理があります(世界的な批判を浴びる)。そこで政府はこの資金をラピダスが銀行借入で調達するものとし、そのために政府保証を付けることを計画しているようです。政府保証はこの事業が失敗した場合ラピダスに代わり政府が借入金を銀行に返済することを約束するものであり、国民負担が生じる可能性があります。悪くすると5兆円の増税が必要となります。そのため簡単に認めるわけにはいきません。

私は、ラピダスを誕生させた初期出資者にも応分の負担を求めるべきだと思います。ラピダスの出資先はキオクシア、ソニーグループ、ソフトバンク、デンソー、トヨタ自動車、NEC、NTTおよび三菱UFJ銀行の計8社であり、ラピダスは外形上純粋な民間企業です。しかし出資額を見ると三菱UFJ銀行(3億円)以外の7社は10億円で並んであり、お付き合い出資であることが分かります。経産省が音頭をとって半導体関連(ユーザーも含む)の大手企業に出資を募り、多くが断った中でこの8社が断れなかったものと思われます。こういう経緯があるにしても出資した企業は取締役会で承認を受けているはずであり、経産省から頼まれての出資だからラピダスの必要資金については一切責任を負わないと言う主張は通らないと思われます。現在ラピダスの企業評価は出資時の数倍になっていると思われ、出資企業は巨額の含み益を得ている状況です。これが上手くいって株式公開するとなると1兆円以上の時価総額になると予想され、出資企業は100倍(出資額10億円が1,000億円)近い利益を得ることになります。これは不条理であり、出資企業もラピダスが今後必要となる資金約5兆円につき相応の負担をする必要があります。最低でもラピダスの銀行借入の半分(約2兆5,000億円)に保証を付けることが求められます。それが嫌なら8社の株式を出資額で産業革新機構が買い取り、政府系企業にする必要があります。8社が形だけの出資でラピダスの資産価値の上昇益を享受するのは「濡れ手に粟」であり、決して許されません。ラピダスの銀行借入全額に対して政府保証を付けることは、政府からラピダス出資企業への贈与(利益供与)であり、主導した国会議員・経産官僚は背任に問われてもおかしくありません。