慶大が国立大授業料3倍値上げを主張するわけ

3月27日に開かれた文部科学省の中央教育審議会「高等教育の在り方に関する特別部会」で慶応大学の伊藤塾長が国立大学の授業料を今の約3倍の年間約150万円に値上げするよう提言したことから、にわかに国立大学の授業料値上げが議論され始めました。5月16日には自民党の「教育・人材力強化調査会」が国立大学授業料の値上げを提言しました。これは国会に60人以上の慶大OBがおり、その大部分を占めるのが自民党であることから、伊藤塾長発言と連動した動きと考えられます。慶大は富裕層子弟の教育機関であり、自民党は富裕層の利権確保政党であることから、当然の動きと言えます。ちょっと驚きなのは、すぐさま東大が授業料値上げの検討を表明したことです。慶大の伊藤塾長に指示されて授業料値上げに動き出したようで、ちょっとみっともないと思われます。国立大学は国立大学法人移行後毎年予算を減らされている中で、昨年来物価が上昇しているため資金不足に陥っているのは容易に予想できます。政府は物価上昇対策として国民には給付金を支給していますから、国立大学法人にも物価上昇に見合う資金の交付を行うべきなのですが、交付せず国立大学を金欠にしてやむなく授業料を値上げさる作戦です。

私立大学である慶大がなぜ、存在意義や運営体制が異なる国立大学の授業料に口出しし、それも3倍値上げと言うべらぼうな主張をするのでしょうか?伊藤塾長は「高度な大学教育を実施するには、学生1人当たり年間300万円は必要」ということを根拠にしていますが、そう考えるなら慶大が300万円にすればよいだけであって、国立大学授業料の3倍値上げを求める必要はありません。どうも現在慶大の授業料は国立大学授業料の約2倍であり、国立大学授業料が3倍の150万円になれば、慶大授業料を2倍の300万円に値上げできると考えているようです。従って慶大および私立大学の学生さんは、伊藤塾長の発言に喝采を叫んでいる場合ではありません。国立大学の授業料が上がれば必ず私立大学の授業料もそれ以上上がります。私立大学の方が学生数の減少がもろに効いていますし、物価上昇の影響は国立大学と同じです。これが分かると伊藤塾長は国立大学の授業料値上げを慶大および私立大学授業料の値上げの口実にしようとしていることが分かります。

「高度な大学教育を実施するには、学生1人当たり年間300万円は必要」という根拠は、米国や英国の大学が300万円以上の授業料を徴収していることのようですが、これも我田引水の口実です。米国や英国では大学授業料が高額なった結果、貧しい家庭の子弟は授業料を払うために高額なローンを抱えることになり、これが政治問題となっています。日本人の年間所得は米国人や英国人の半分程度で平均420万円程度ですから、150万円の授業料では国立大学に行けない子供が大量に出ます。その結果大学進学率は今の半分の20%台に落ちると思われます。慶大はこれが狙いで、大学を富裕層で独占するつもりです。既にメガバンク・生保・損保・放送・広告代理店などの高給業界では慶大OBが幹部の多くを占め、毎年慶大卒業生を大量に送り込む体制が完成しています。それでもメーカーでは国立大学から優秀な理系人材が供給され、慶大支配は完成していません。大企業の慶大支配を完成させる上で国立大学が邪魔であることから、国立大学の授業料を3倍化し国立大も富裕層の子弟しか行けない大学化することを狙っていると考えられます。そのためには伊藤塾長が文部科学省の審議会で国立大学授業料の大幅な値上げを主張して文部科学省を動かし、慶大OB議員(国会三田会所属)が政府や国会を動かす役割分担となっていると考えられます。

この慶大の悪企みが通れば次の理由により日本が衰退することになります。

1.貧しい家庭の優秀な子供が大学に行けなくなり、日本の産業競争力が落ちる。

慶大卒業生は、出来上がった大企業では歯車として優秀ですが、新興企業の経営者(ソフトバンクの孫社長、楽天の三木谷社長、DeNAの南場会長など)やベンチャー企業の経営者に慶大OBが少ないことを見れば分かるように、企業を創業し大きくするのは不得手です。従って慶大OBだらけでは新しい企業が育たず日本の産業が弱体化するのは明らかです。

2.国立大学が弱体化すると日本から世界的な研究成果が出なくなり、日本の産業が衰退する。

これは日本のノーベル賞受賞者が国立大学の研究者で占められており、慶大からは1人も出ていないことを見れば明白です。

3.日本は今後とも低所得者が大部分を占める構造であり、低所得者家庭の優秀な子供も高等教育を受けられる教育システムにする必要がある。

そのためには、英米型の教育システムではなく欧州大陸、とりわけドイツ型の教育システムが望ましいと考えられます。ドイツでは教育費は大学まで無償ですが、早くから能力別教育が徹底しており、学力に恵まれない子供は中学・高校段階で職業養成学校に進み、大学進学者は全体の3割程度になっています。日本も大学で教育を受けさせた方がよい子供は全体の2割程度であり、その他の者は遅くとも高校進学段階で職業養成学校(専門学校)に進むのが良いと考えられます。現在企業はジョブ型採用に移行中であり、技術者については大学工学部卒業生より工業高専卒業生が優秀という評価になってきています。今後他の職業についても同じようになると思われ、普通高校を職業別専門学校(法曹高専=将来弁護士など法曹になる、会計高専=公認会計士・税理士など、医療高専=医者・看護師・臨床検査士など、教育高専=学校教師など)に転換するのが良いと考えられます。こうすれば20歳までに司法試験や公認会計士試験に合格できますし、更に勉強したい人は大学3年次に編入させます。

4.少子化の最大の原因は、子供の教育・学費が出せず(私立中学に進学させられず)子供を悲しませることであり、国立大学授業料が3倍になれば、子供を大学にも進学させられないと考える若い親が増え、若い世代が子供を持たなくなり更に少子化が進む。

これは日経のアンケートでも明らかになっています。

このように日本では、国立授業料3倍化は論外であり、ドイツ流の学費無償化が必要です。自民党が政権を握り続ければ国立大学授業料3倍化に突き進みますから、困る人は選挙で自民党に投票しないことです。その点で前原誠司衆議院が代表を務める「教育無償化を実現する党」はワンイシューではありますが、社会問題のツボを押さえており投票に値する政党と言えます。全国の学生が応援する価値があると思われます。