検事総長人事は自民党裏金事件処理の露骨な論功行賞
法務省は6月28日、検事総長に東京高検検事長の畝本直美氏を充てる人事を発表しました。新聞は女性初の検事総長と取り上げていますが、同時に発表された東京高検検事長に斎藤隆博最高検次長検事、最高検次長検事に山元裕史東京地検検事正を充てる一連の人事を見ると、今回の人事の背景が見えてきます。それは全員が自民党(政治資金)裏金事件を処理したラインの幹部ということです。自民党裏金事件は、検察の姿勢によっては自民党の大物幹部がごっそり起訴されかねない大事件でした。起訴基準を4,000万円以上に設定したことから、大野泰正議員(5,154万円)、池田佳隆議員(4,826万円)、谷川弥一議員4,355万円の3人の起訴に留まりましたが、3,000万円以上に設定すれば二階俊博元幹事長(,3526万円)まで入ってきました。更に2,000万円以上に設定すれば萩生田光一元政調会長(2728万円)山谷えり子元拉致問題担当大臣(2,403万円)橋本聖子元オ東京リンピック担当大臣(2,057万円)まで、更に1,000万円以上に設定すれば世耕弘成参議院幹事長(1,542万円)、林幹雄元経産大臣(1,512万円)武田良太元総務大臣(1,172万円)、平沢勝栄元復興大臣(1,080万円)、衛藤征士郎元防衛庁長官(1,070万円)、松野博一元官房長官(1,051万円)高木毅元国会対策委員長(1,019万円)まで入ってきています。こうなると自民党は大打撃です。そこで何人か起訴されるのは仕方ないとして、少人数の起訴に留めるために政府は検察首脳に働きかけを行ったものと思われます。組織上検察は法務省傘下で政府の指揮下にありますし、検事総長、高検検事長の任命には内閣人事局の承認が必要です。内閣人事局における審査のポイントは、政府にとり不都合な人物でないかかどうかであり、政府の要望を聞き入れなければ就任は承認されないことになります。従って将来検事総長を狙う検察官は、多くの場合政府の要望を受け入れる、または配慮することになります。自民党裏金事件では、国民に対して検察の格好がつき、かつ自民党のダメージが最小で済む裏金金額4,000万円以上の小者議員3人を起訴することで検察と政府の間で妥協が成立したと考えられます。
この事件は東京地検特捜部が捜査しましたから、そのラインは、東京地検特捜部長→東京地検次席検事→東京地検検事正(山元裕史)→東京高検検事長(畝本直美)→最高検次長検事(斎藤隆博。最高検実務総括)→検事総長(甲斐行夫)ということになります。これを見れば芋づる式人事になっていることは明らかであり、今回の検事総長関連人事は、自民党裏金事件を政府の要望に従って処理したことの論功行賞人事であることが分かります。
畝本新検事総長の経歴を見ると、これまでの検事総長が経験している法務省刑事局長や官房長、事務次官などを経験しておらず、明らかに検事総長候補とは見なされていなかったことが分かります。それが検事総長に就任したのは、検事総長就任予定だった黒川元東京高検検事長事件の影響と考えられます。これは安倍政権が当時の稲田検事総長に黒川東京高検検事長との交代を迫ったところ、検事総長人事は検察庁が決める慣行を守ろうとした稲田検事総長が拒否したため、政府と検察の一大バトルに発展しました。その結果黒川東京高検検事長は辞職し、当時法務省事務次官(将来の検事総長候補)だった辻裕教氏は、本件を上手く処理できなかったとして検事総長就任ラインを外れ仙台高検検事長転出後辞職しました。その結果本命の検事総長候補がいなくなってしまいました。そこで稲田氏や黒川氏のような東大卒のエリート検察官に手を焼いていた政府が目を付けたのが私大(中大)卒で目立たないながら検察(法務省)幹部の末席に残っていた畝本氏だったように思われます。従って畝本氏を抜擢した政府の狙いは、政府と検察の意志疎通を円滑にすることであり、もっと有体に言えば、政府の言うことを聞く検察にすることだったと思われます。そしてその狙いは自民党裏金事件の処理で実現したと言えます。これを見ると政府は今後、検事総長は法務次官経験者が就任し、法務事務次官より上のポストであるというこれまでの位置付けを覆し、検事総長を法務事務次官より下のポストにしようとしているように思われます。こうすれば法務事務次官を通じて検察をコントロールできます。良い見方をすれば法務省の外局である検察庁が本局である法務省より格上である(飲み込んでいる)という違法状態を修正しようとしているとも考えられます。
今回検事総長と東京高検検事長という検察のNO1とNO2が私大(中大)出身者となったことは、黒川事件で検事総長人事に政府が介入したことや黒川検事総長を実現するために検察官の定年延長法案を成立させようとしたこと、更にはその前の森友事件で公文書偽造を指示した財務省の佐川元局長を不起訴にしたことなどに関して不満を持つ多くの有能な検察幹部候補生が去って行ったか、あるいは左遷され、現在人材が払底していることが予想されます。だとすれば低知能安倍政権が高知能検察を破壊したことになります。
今回の検事総長関連人事を知って失望した検察官も多いと思われ、今後優秀な検察官の弁護士転出が増加すると思われます。さらに検察官は毎日犯罪者と向き合い精神衛生的に良くないことや犯罪者から恨まれて服役後襲撃される可能性がある危険な職業であることを考えると、東大や京大卒のエリート法曹の卵が検察官を志望しないのは当然ですが、他大学の優秀な法曹の卵も志望しなくなり、ついには検察官のなり手がいない状況になることが危惧されます。
*あとで調べたら法務事務次官(NO.3)も私大卒(慶大)でした。こんな官庁ほかにないと思います。法務省は学歴でみれば二流官庁になっています。