角川氏裁判、勾留延長を認めた裁判官の責任が大きい

東京五輪の汚職事件をめぐって逮捕・起訴され、226日にわたり拘留された出版大手KADOKAWA元会長角川歴彦氏が6月27日、長期間の拘束により自白を引き出そうとする人質司法の問題を問うため、国に2億2,000万円の賠償を求める国家賠償訴訟を東京地裁に起こしたという報道です。

被疑者の長期勾留は最近相次いで問題になっています。大川原化工機事件では社長ら3名が約11カ月勾留され、保釈後起訴が取り下げになるという破廉恥な結果になっています。この間勾留された相島顧問にはガンが見つかりましたが、勾留中の被疑者を治療できる病院はなく、結局勾留執行停止にして入院治療を行いましたが、保釈2日後に亡くなっています(亡くなりそうだったから保釈した)。裁判で無罪になったプレサンスコーポレーションの社長に至っては248日勾留されています。

これだけの長期間勾留するのは、勾留者の自白を引き出すしか犯罪の証拠がないからです。ようするに見切り発車の逮捕・勾留を行い、あとはこれを正当化するために勾留者が弱って嘘でも良いから容疑を認める自白をするのを待っているのです。

長期勾留には2つの時点で間違いが存在し、それを犯した者が自分の間違いを隠ぺいするために長期勾留を続けています。1つの時点は、逮捕と最初の勾留を決定する時点です。これは検察官が証拠が十分でないのに逮捕・勾留の申請を行ったのが一番問題ですが、それを審査し認めた裁判官にも問題があります。逮捕する証拠の吟味が十分でなかったことは明らかです。次に勾留延長の申請時点です。多くの場合申請理由は「証拠隠滅の恐れ」としていますが、それは妥当性を欠きます。犯罪の証拠は釈放されて隠滅できるものは少なく、かつ隠滅行動をすればそれが犯罪の証拠となってしまいます。従って勾留延長の申請理由は、「自白しないから」からしかありません。これは検察官も裁判官も重々承知のうえで、これまでの慣行で検察官はこのように書き、裁判はこれを認めているものと思われます。

これは観念思考が染みついた法曹関係者だけに通じる慣行です。モノづくりの世界では絶対にありえません。モノづくりでは部品という実物がないと製品が完成しませんから、実物を表さない(実物と紐づいていない)言葉は相手にされません。ところが法曹の世界では、実物と紐づいていない言葉が重要な地位を占めています。例えば、違法、責任、故意、過失、瑕疵、正当防衛、受忍限度などです。どれもこれらの言葉が表す実物(実体)を目の前に提示するのは困難です。このような言葉を日常的に相手にしていたら、逮捕や勾留延長の決定が実体のない言葉の世界で行われてしまいます。決定した後は「問題ない」と突っぱねれば、決定に裁判官が関わっているのですから、責任を問われる(裁判で負ける)ことはありません。

従って長期勾留の問題は、裁判官の責任を問わない限り、または裁判官を除いた裁判(裁判員裁判)で審理しない限り、解決しません。日本は検察官と裁判官が同じ公安職員として一体感が強く、裁判官が客観的に検察の判断を審査する体制になっていません。これは長期勾留や検察の不法取り調べ事件の頻発の背景にあります。本裁判では勾留延長を認めた裁判官の責任を重点的に追及する必要があります。