「おもてなし」がカスハラと低賃金の元凶

最近サービス産業に従事している人がカスハラに悩まされているようです。カスハラは以前からありましたが、最近は数が増え、かつ映像を見るとカスハラ行為がエスカレートしているように思えます。以前は一部に普段から厄介な人がカスハラする感じでしたが、最近は普通の人が豹変してカスハラするようになっています。これは世の中が厳しくなり、日常生活でストレスに晒される中で、サービス産業従事者にしわ寄せが言っているように思われます。

カスハラには日本の1つの誤ったキャッチフレーズが影響を与えているように思われます。それは「おもてなし」という言葉です。この言葉は、東京オリンピック招致が決まった2013年のIOCブエノスアイレス総会で、日本の招集委員会メンバーだった元フジテレビアナウンサー滝川クリステルさんが言って世界的に有名になりましたが、私はあとのとき「危ない言葉だな」と思いました。それは「おもてなし」という言葉が「無限のサービス」と誤解される恐れがあったからです。欧米で使われるサービスと言う言葉には、対価に応じた有限性の行為という意味になります。だからチップはサービス終了後にサービスの質に応じた額を払うことになっています。それがサービスになっていなかったら払わないこともできます。即ち欧米のサービスには対価関係があります。一方「おもてなし」という言葉には対価性がない無限の奉仕の意味合いが感じられます。だから「おもてなし」を受けた欧米人は、対価を超えた奉仕に驚きます。それでも欧米人は、それは彼らが要求できるものではないと分かっていますから、不満があってもカスハラ行為には及びません。一方日本人は、サービス産業の従業員は「おもてなし」が当然であり、自分が考える「おもてなし」の基準に達しないとカスハラ行為に及びます。こう考えると「おもてなし」の内容が各人バラバラであることがカスハラの原因になっていることが分かります。

最近カスハラ対策を公表する企業が増えてきましたが、カスハラを減らすには2つのことが必要となります。1つ目は「おもてなし」という言葉を廃止することです。「おもてなし」は人に過剰な奉仕を要求する出発点になっています。それにサービスは無償が当然と言う印象を与え、サービス産業従事者の低賃金を招いています。2つ目は、サービス産業業界または個別の企業で、提供するサービスの内容を具体化(規定化)し、料金との対価性をはっきりさせることです。自社の料金に含まれるサービスはこういう内容であり、それ以下でも以上でもありません、もしそれ以下であれば正当なクレームとして対応しますし、それ以上のことを求めるものであれば毅然として対応するとはっきりと宣言します。これを受付に貼り出し、パンフに記載しておけば、普通の人のカスハラは無くなります。ただカスハラ体質の人はいますので、受付や宴会場などカスハラが起こりやすい場所には監視カメラを設置し、犯罪行為に該当する(強要や脅迫など)ケースは映像を元に警察に告発することとします(何もなかった映像は1日で消去)。こういう当たり前のことをする時期にきているように思われます。