日本経済再興には国立大授業料の無償化が必要

慶大の伊藤塾長が中央教育審議会で国立大学の授業料を150万円に値上げすべきと提言してから、授業料値上げの検討を表明する国立大学が増えてきました。先ず東大が10%の値上げを表明し、熊本大学や広島大学も値上げの検討を表明しています。これは昨年来の賃上げや電気代など各種物価の上昇が続く中で、国から大学への交付金は減らされていますから、当然の動きと言えます。むしろ国(政府と文科省)が誘導しているとも言えます。

しかし国立大学の授業値上げは、日本経済の取り返しのつかない没落を招きます。1990年頃のバブル崩壊以降日本の経済的地位は下がり続け、アジアでも中位になっています。日本の1人当たりGDP(33,138ドル。2024年IMF名目GDP。世界38位)はアジア首位のシンガポール(88,407ドル)には遥かに及ばず、台湾(34,432ドル)韓国(34,165ドル)にも抜かれています。この原因はバブル崩壊とされていますが、真の原因は教育水準の低下と考えられます。

国立大学の授業料値上げ状況を見ると

1975年  36,000円

1976年  9,6000

1978年 14,4000

1980年 18,0000

1982年 216,000

1984年 252,000

1987年 300,000

1989年 339,600

1991年 375,600

1993年 411,600

1995年 447,600

1997年 469,200

1999年 47,8800

2001年 496,800

2003年 520,800

2005年 53,5800

となっており、ほぼ2年おきに値上げし、約50年で約15倍になっています。これは増税ほど選挙に影響なく、簡単にできるからです。この結果貧しい家庭の子供の中には大学進学を断念したものもいると思われます。また進学してもアルバイトに明け暮れ、授業にあまり出れなかった学生も多いと思われます。また奨学金を受けていた学生は、卒業した時点で200万円以上の借金を抱えることになります(私大の場合は400~600万円の借金がある人も出る模様)。国は国立大学の授業料値上げの根拠を「大学教育で利益を受けるのは学生個人であり、そのコストである授業料は受益者である学生が負担すべき」(受益者負担)に求めましたが、現在の日本の没落を見るとこれが間違っていたことが分かります。大学教育は個人以上に国が利益を受けるのです。言い換えれば国が経済的に繁栄するためには、良質の大学教育が不可欠ということになります。1976年からの国立大学授業料値上げは、この点の理解を欠いていました。もう一つ時期が悪過ぎました。それは当時の日本の大学は研究や教育レベルが発展途上であり、欧米並みの研究水準に達する、教育体制が整う前に授業料の値上げや科学研究費・運営費の削減に走ったことです。その結果研究水準は下がり、教育体制はどんどん劣悪化していきました。現在欧米の大学評価では、日本の国立大学の水準はアジアでも中位以下のランクになっています。これについては、留学生数が少ない、外国人教授が少ないなど日本の大学があまり重視していないことが原因であり、研究水準や学生の質はアジアトップレベルであると強弁する声も聞かれますが、そんなことはないと思われます。アジアの各国、とりわけ中国や韓国、台湾では、難関大学入学のため熾烈な受験競争が行われていますし、大学でも欧米並みの厳しい教育が行われています。それに欧米の難関大学に多くの留学生を送り込み、キャッチアップに必死です。一方日本の国立大学はどうかと言うと、科学研究費や運営費は毎年削られ、研究者は研究継続の目途が立たず、かつ雑務は増える一方、留学生は韓国の半分と言われています。そのため研究水準がダダ下がりなのは明白です。学生も大学で何かを身に着けるよりも卒業証書がもらえればよいという者が多く、大学卒としての社会貢献は中国、韓国、台湾より低くなっています。これが中国にGDP総額で大きく離され、1人当たりGDPで台湾や韓国に抜かれた真の原因です。

従って日本がもう一度台湾や韓国を抜き返す経済力を身に着けるには、国立大学を抜本的に強化する、具体的には研究水準と学生の質を引き上げるしかありません。そのためには国立大学の授業料は無償化することが必要です。大学教育は個人よりも日本と言う国が最大の受益者であることを考えれば当然です。この考え方に基づいて欧州大陸の多くの国(フランス、ドイツ、ノルウェー、フィンランド、オーストリアなど)では大学授業料は無償となっています。慶大の伊藤塾長はこれらの事実には触れず、米国・英国の大学授業料は年間最低300万円であり、日本の国立大学も150万円に値上げすべきと述べていますが、自分の主張を実現するために不利なデータを隠すのは学者に有るまじき態度です。

国立大学の授業料を無償化するとなると(当然それ以下の教育費も無償化することになる)財源が問題になります(国立大学への交付金はわずか約1兆円に過ぎない)が、金融所得の税率を上げれば解決します。金融所得を除く所得については総合課税で最高税率は45%となっていますが、金融所得(預金利子、株式配当、株式売却益)については、一律20%となっています。これは金融所得が多い富裕層に有利な税制であり、ずっと不公平税制と言われてきています。そこで大学授業料、更には教育費無償化の財源として、金融所得に対する税率を引き上げることが考えられます。たぶん2,3%引き上げればよいはずです。これをせず富裕層が金融所得のうま味に溺れていれば、日本経済が没落し、いずれ金融所得のうま味もなくなってしまいます。

なお国立大学の無償化に当たっては、国立大学定員の半減(高校卒業者が半減している)、理系特化(日本の産業に貢献するのは理系だけ)、文系は通信教育に集約(通学する理由なし。レポートで鍛えられる)、高専の拡充(工業以外に医療、法曹、会計などの高専を作り、高専経由大学進学を本筋化する)などの改革が必要となります(別途書きます)。この結果大学進学率は欧州大陸国並みの20%程度になります。国家として大学教育を受けさせたい人はこれくらいです。

私大は勝手にやればよく、慶大は米国・英国の一流大学の道(授業料年間1,000万円)を進んで下さい。国立大学には干渉しないで!