官僚の処分は人事院の第三者委員会で行わないと
防衛相は7月12日、安全保障に関わる機密情報「特定秘密」についての違法な運用や手当の不正受給などが行われていたとして、自衛隊員218人を処分したと発表しました。うち113人が特定秘密保護法違反での処分ですから、今回の処分は自衛隊内で特定秘密取扱の厳格化を進めるためのものと思われます。
特定秘密保護法は2014年に施行され、外交などに関する「特定秘密」に指定された情報を扱えるのは、適性評価を受けて認められた人のみと定めています。それまで日本では秘密の取扱が緩く、友好国でも情報漏洩を恐れ秘密情報を伝えなかったようです。この法律では、秘密情報を扱える担当者は厳重な身辺調査を行って選定する、秘密文書の廃棄は決まった手続きで行うなどを規定しているようですが、海自では適性評価を受けていない隊員に特定秘密を取り扱わせるなどした例が計43件あったほか、特定秘密の文書を不適切に廃棄するといった違反が計15件見つかったということです(たぶんこんなものではない)。海自の場合、仕事場が艦船内であり、隔離され漏洩しにくいという環境的油断があったものと思われます。
このほか海自の潜水艦救難艦2隻に所属する隊員の潜水手当4,300万円の不正受給、基地内の食堂などで代金を払わずに食事をする不正喫食も処分理由とされています。
今回の処分では海自トップの酒井良海上幕僚長が辞任したことから、重い処分のように見えますが、処分自体は減給1カ月(30分の1)の懲戒処分であり、通常の交代人事が早まっただけと言うのが実態だと思われます。さらに特定秘密の取り扱いを巡り指揮監督が不十分だったとして、増田和夫事務次官と吉田圭秀統合幕僚長、森下泰臣陸上幕僚長、内倉浩昭航空幕僚長ら最高幹部が訓戒を受けたということが、これは全く無意味、無効力であり、親がいたずらをした子供に「め!」と言ったようなものです。数カ月もすれば何事もなかったように多くが昇格します。
このように公務員の処分は形だけであり、昇格や成績査定においての不利益は全くありません。例えば2023年2月に、LGBTなど性的少数者への差別発言で岸田首相秘書官を更迭された荒井勝喜氏はその年の7月1日には出向元経産省の官房審議官に昇格し、今年7月1日には通商政策局長に昇格しています。このポストは事務次官待機ポストなので岸田首相再選なら経産事務次官だと思われます(荒井氏は早大卒で岸田首相の後輩に当たる。岸田首相は荒井氏を経産省初の私大卒事務次官にする腹積もり。9月の自民党総裁選で岸田首相が再選されなければなし)。2018年には、森友事件で佐川財務局長が決裁文書の改ざんを指示したことの監督責任として財務省の幹部10名余が処分されましたが、その数か月後にはこの多くが昇格しています。現在の藤原章夫文部科学事務次官は2017年に天下り問題(人事課長だった)で1か月の定職処分を受けましたが、2023年には事務次官に昇格しています。このように官僚の処分は形ばかりであり、昇格や成績査定には全く悪影響ないばかりかむしろ功績のようになっており、再発防止効果や反省は皆無と言ってよいと思われます。民間の場合、処分を受けると昇進レースから脱落し、人事や賞与査定で悪影響がでますから、処分を受ける本人にとっては大ごとですし、他の社員には強い再発防止効果を発揮します。このように官僚における処分と民間における処分とは効果が全く違っていますが、考え方としては同じ処分であり、官僚は運用上処分を骨抜きにしていることになります。
最近でも水俣病患者との懇談会(5月1日)で3分が経過したとしてマイク切断を指示したとして批判された木内哲平環境省特殊疾病対策室長は、7月1日に通常人事の一環として厚生労働省に帰任しています。木内氏も人事上のマイナス影響はないと予想されます。こうなると処分に不正や間違いの抑制効果、再発防止効果がなくなってしまいます。公務員は公僕なのだから、処分には厳しい効果を伴わせる必要があります。所属官庁だと仲間意識が働き甘い処分になってしまいますので、処分は人事院に第三者委員会を設けて行うようにすべきだと思われます。