今の円安は日本経済の実態に応じた水準訂正

数日前ドル円レートで円が160円台から156円程度まで上昇したことから財務省の円買い介入が噂されています。一方トランプ氏が共和党大統領候補に決まり、トランプ氏は米国製造業の復権を掲げ、ドル高是正に動くと言われています。そうなると今後は円高が予想されますが、そうはならないのではないでしょうか。

今回の円安については、米国金利が高く日本の金利が低いために起こったものであり、日銀が金利引き上げに動けば円高になるとの予想が多いように思われます。多くの企業もまた円高に戻ることを予想して期中のドル円レートを円高に設定しています。

一方ソフトバンクグループの孫社長は、止まらない円安について「テクニカルには金利だとかその他色々あるんですけど、構造的問題。この30年、日本の経済の底力がだいぶ弱まっていると思うんです」「この30年、新しい技術が日本からほとんど出てこなくなった。その間にアメリカは物凄く進化し、これからさらに進化する。さらなる成長エンジンを持っているか、どうか。それが一番重要」と述べ、今の円安は日米の経済構造を反映したものであり、日本の経済構造が改善されない限り、円安は進む(以前のような円高にはならない)と述べています。孫社長は為替の専門家ではありませんが、為替は経済構造を反映するのは間違いなく、マクロでは孫社長の見立ては当たっているように思われます。

ドル円レートを歴史的に見ると、1980年頃は200円台であり、バル崩壊が始まった1990年頃でも140円台です。その後日本は30年以上経済が低迷しましたが、ドル円レートは1ドル70円~125円台で推移してきました。この間米国や欧州の多くの国は年間2%以上のGDP成長を続けていますので、少なくともこの30年間に60%以上の経済成長を遂げています。

これを見るとドル円レートは日本と世界の経済状態と無関係に円高状態を続けていたことが分かります。本来1990~2020年のドル円レートは1990年の140円台から毎年2%下落した水準が妥当であり、今の円安はここに向かって下落を続けていると考えられます。

これについては、元財務省財務官の渡辺博史氏も日経新聞で、「今の円安は円の再評価の結果であり、150以下の円高には当面ならない」と述べています。エコノミストの多くは今回の円安を日米の金利差に求め、日銀の利上げにより修正されるという見解が多いように思われますが、この30年間に開いた日米の経済格差を考慮しないのは不思議なように思われます。日本の経済状況の悪さは、1ドル160円になっても輸出できるものが自動車や半導体製造装置くらいしかないことでも分かります。円安により輸出できる製品が増えない限り、円高に転ずることはないと考えられます。