国立大学無償化と大学改革が必要な訳

高校卒業者の減少と大学財政の悪化で大学改革が必要となっています。また昨年1人当たりGDPで韓国ばかりでなく台湾にも抜かれた事実から分かることは、国民の学力が低下しており、これが産業競争力の低下として現れてきているということです。世界の大学ランキングを見れば、日本の大学は中国や韓国、台湾の大学より低ランクとなっています。これには外国人留学生数、外国人教員数とか日本の大学があまり重視していない項目が入っており、学生の学力や大学の研究力で見れば、中国や韓国、台湾の大学より上であるという強弁も見られますが、国民の学力は国の産業競争力に現れることから、国民1人当たりGDPで下だったらこれらも下と認めるしかありません。このことは、3割以上の円安になりながら輸出がわずかしか増加しないことかも伺えます。これは輸出する物がない、即ち世界が買いたい物を日本が作れなくなっていることを意味します。それくらい国民の学力が低下しているということです。

そこで大学改革が必要となります。先ず一番重要なことは、国立大学の授業料を無償化することです。慶大の伊藤塾長は、国立大学の授業料を現行の53万円から150万円程度に値上げすべきと主張していますが、これはお坊ちゃまの自分のことしか考えない主張です。150万円の根拠として伊藤塾長は、欧米の大学の授業料は最低でも300万円程度であり、この程度ないと良い大学教育はできないと言っています。これは慶大が授業料を300万円に引き上げるための環境作りであると同時に、国民をたぶらかす詐欺師にも類する発言でもあります。というのは、米国および英国の大学は伊藤塾長の言う通りですが、欧州大陸の国(ドイツ、フランス、オーストリア、ノルウェーなど)では大学授業料は無償です。これは大学教育の受益者は国家であり、国家に貢献する国民を教育するのは無償が当然と言う考え方に基づいています。米国や英国は大学教育の受益者は学生個人であり、授業料は学生が負担すべきという考え方で高くなっています。その結果、学生が多額のローンを負うことが社会問題化しています。日本は増税が選挙に悪影響を与えることから、米国および英国の考え方を採用し、1976年から2年おきに授業料を値上げし2005には15倍の約53万円になりました。日本の家庭の平均所得は450万円程度ですから、53万円の授業料は大変重く、進学を断念した子供も多いと思われます。また奨学金を得て進学したら、卒業時に200万円以上のローンを抱え、かつ在学中はアルバイトに明け暮れることになります。これが大学生の学力低下に繋がっているのです。従って国立大学の授業料値上げは、低所得家庭の優秀な子供が大学教育を受けられなり、国家の経済競争力を低下させることから、愚策と言えます。

日本のような貧しい国は、国立大学教育の受益者は国と考え、国立大学の授業料は無償とするのが国益にかないます。その場合、国立大学には次のような改革が必要となります。

1.国立大学定員を半減する

これは高校卒業者がピークから半減しているのに定員はそのままであり、現在の入学者の学力はピークの半分程度と考えられることから、定員を半減し入学者の学力をピーク時のレベルに戻すものです。大学教育の受益者が国家であることから、国家が大学教育を受けさせる国民は、それにふさわしい能力をもつ者に限定されることを意味します。国家として大学教育を受けさせたい国民は、全国民のせいぜい2割程度です(ドイツの割合)。定員減少は文系を通信教育に集約することで実現します(理系は減らさない)。

2.国立大学は理系に特化する

国家が受益者となると国家に貢献する大学教育は、工学や理学、医学、薬学などの理系教育のみとなります。これらの教育は実験や実習が不可欠であり、通学教育が不可欠です。

3.文系は通信教育に一本化する

文系学部に進学した人なら分かりますが、授業は100人、200人、400人収容する大きな講義室で行われることが大部分であり、インターネットが普及した現在ではオンライン授業やネット視聴授業で代替できます。実際コロナ蔓延時にはこれで行われました。こちらの方が大講義室で授業を聞くより遥かに効果的です。更に多数のレポートの提出を義務付ければ、学生の実力は通学より遥かに上がります。

通信教育なら東大と京大に通信教育学部(国立大学の定員外)をおけば十分です。卒業は何年かかっても良く、また2年程度で卒業することも可能とし、かつ一定のレベルに達しない限り(レポートの評価が中心)卒業できないことにします。卒業証書は東大および京大名で出すので、卒業大学による差別もなくなります。弁護士や公認会計士を目指す人は、通信教育を受けずこれらの予備校に通うことになると思われます(大学卒認定はいつでもとれる)。

これにより文系学部の教授陣がごっそり不要となり、大学経費の削減に大きな効果が出ます。

4.普通高校中心から高専中心にする

現在工業高専卒業生はメーカーから引っ張りだこですが、同時に大学からも3年次編入の誘いが盛んです。これは高専では高度な基礎教育がなされており、メーカーでは即戦力、大学では即専門教育ができるからです。大学が専門学部制をとる限り、入学者は普通高校卒業者よりも基礎的専門教育を受けた学生が望ましいのは当然です。そのため普通高校を大学の専門学部に応じた高等専門学校に分化した方がよいことになります。大学医学部・薬学部などに進むのなら医療高専、法学部に進むのなら法曹高専、会計士を目指すのなら会計高専、教員を目指すのなら教育高専を新たに作ります。こうすれば今の工業高専と同じような評価が得られます(司法試験や公認会計士試験に高専在学中に合格する者が相当出る)。

尚無償化の原資は、20%と低くなっている金融取得(利息、配当、株式売却益)の税率を1~2%上げれば確保できます。または所得税(個人・法人)を1%程度あげることも考えられます。教育無償化に使うのなら反対は少ないと思われます。