熊本県が不当返還させた旅行割補助金、旅行社に返した?

4月11日熊本県の旅行助成事業「くまもと再発見の旅」で熊本県庁幹部から不正(報告書では不適切と表現)受給見逃しの指示がったなどとして公益通報された事案について、熊本県が設置した第三者委員会の調査報告書が公表されました。

結論は、

  • 不正受給がそもそもなかった
  • 県幹部の不正見逃し指示はなかった
  • 県の損害はなかった

ということでした。公益通報されたのは、熊本県幹部から不正受給見逃しの指示があったことでしたので、第三者委員会の結論は「指示の有無」になると思われましたが、意外にも指示の前提となる「不正受給」がそもそもなかったと結論付けました。その理由は以下の通りです。

1.そもそも助成金を受給できる日帰り旅行の条件が曖昧だった(書面に書かれていないため個人の理解がバラバラ)。認定基準が曖昧であることから、担当課が不正と認定した受給も不正とは言い切れない。

2.不正受給として返還を求められた阪急交通とTKUヒューマン(TKU)および他の参加旅行社(事務局のJTBが一括返還)では、周遊券(わくわく1dayパス・市電1日乗車券)だけを移動手段に使った商品が助成金受領後不正とされたが、周遊券だけを使った商品はダメと言う条件を明記した文書は担当課内には無く、国のGoToトラベルの条件がそうなっているからダメと考えていた。一方では本件事業の条件が県の裁量に委ねられていたことから、GoToトラベルでは認められていないタクシーやレンタカー、市電、路線バスを使うことを認めていた。このように助成を受けられる商品の条件に矛盾があり、周知のしようがなかったことから参加旅行社に周知されなかった(通知書面なし、説明会なし)。

3.TKUで不正の疑いがあるとされた約2,000万円は、タクシーを移動終端(市電の降車駅)から飲食店の移動に使ったから条件違反とされたものだが、移動始端(市電の乗車駅)までの移動にはタクシーが使えて、移動終端からの移動にはタクシーが使えないという理由付けも明確なものはなかった。

4.本件事業に国が助成金を付けたのは、コロナ禍によって旅行業者や旅客運送業社、飲食店、観光施設などにお金が落ちなくなったからであり、助成金制度の趣旨からは助成条件はできるだけ緩やかかつ単純にする必要があったが、担当課は趣旨が異なるGoToトラベルの基準を準用し、本件助成金の趣旨を逸脱していた。

本件第三者委員会の判断は、県庁幹部の見逃し指示以前に旅行社に助成金の不正請求は無かった(不正請求と見なすことはできない)として旅行社を救済したものです。熊本県が本件第三者委員会の報告書を受け入れるのなら、不正があったとして返還させた助成金を旅行社に返す必要があります。これについては報告書でも検討するよう提言していますし、報告書が公表された翌4月12日蒲島知事も記者会見で「県に弁済された約4,500万円については、それぞれの社と協議し、返還も含め検討する」と述べていいます(これ以外にJTBが取りまとめた旅行社分として3,000万円返還しているのでは?)。

報告書提出後4カ月が経とうとしていますが、熊本県がこの分を旅行社に返還したという報道がないことから、気になるところです。もし熊本県が返還しないと決定したのならその理由を公表すべきだし、旅行社は返還を求めて訴訟を起こすべきです。今回の不正受給事件では旅行社の担当者が多数処分されていると思われ、彼らの人生もかかっています。