日野といすゞの経営統合こそ日本の国益

8月1日国土交通省(国交省)がトヨタに新たな認証不正があったとして是正命令を出しました。不正の内容は重大なものではなく、認証監督機関として面目をつぶされた国交省が無理やり見つけ出してトヨタに意趣返しをしている構図です。認証業務は自動車メーカーでは裏方的な業務であり、認証部門以外に業務が分かる社員はいません。そのため認証部門で不正が行われても発覚することは困難です。これは昨年認証部門の不正が発覚したトヨタグループの日野自動車(日野)やダイハツと同じ構造です。しかし日野やダイハツが組織的に不正と認識しながら行っていたのに対し、トヨタの不正は組織的ではなく担当者または担当グループで単発的に行われたもののように思われます。これは自動車の製造工程において避けられない不良と同程度発生すると考えられ、6月にトヨタの認証不正が明かになった際の記者会見で豊田会長も「撲滅は困難かも知れない」と述べていました。

このことが分かれば、日野の認証不正発覚に伴いトヨタが日野を三菱ふそうトラック・バス(実質的にはダイムラートラック=ダイムラー)と経営統合させるという経営判断は再考が必要なことが分かります。トヨタでも防げなかったことが日野で起こるのはむしろ当然であり、現在トヨタは認証業務に関して日野と同じスタートラインに立ったことになります。そうだとすれば、トヨタは日野と協力しながら認証業務を改善するのが良いことになります。もちろんダイムラーが日本で評判が良ければ日野とダイムラーの経営統合を進めることも考えられますが、ダイムラーが買収した三菱ふそうは、買収後売上を大きく落とし(2023年12月期8,329億円)、かって並び立っていたいすゞ自動車(2024年3月期売上高3兆3,866億円。いすゞ)や日野(2024年3月期1兆5,162億円)に大きく引き離されています。これはダイムラーの経営スタイルが日本の顧客に嫌われているからであり、日野がダイムラーと経営統合すれば三菱ふそうの二の舞になること必至です。これは日野の顧客や社員にとって不幸なことであり、更には日本のトラック産業にとっても不幸なことです。三菱ふそうと日野という日本の3大トラックメーカーのうち2つをドイツ企業であるダイムラーにくれてやることは、日本の国益に反します。日本のトラックメーカーは、国際的にいすゞでも7,8番目前後の売上高であり、世界の大手トラックメーカーと提携しないと生き残れないと言われています。しかしいすゞと日野が経営統合すれば、売上高が5兆円規模となり、世界的にも大手トラックメーカーの仲間入りをします。これでやっと電動化や自動運転などの課題に単独で対応できるようになります。かついすゞは小型トラックに強く、日野は大型トラックに強いというように補完関係にあります。両社は国際市場でも競い合っており、統合すれば投資の重複が省けます。このようにいすゞと日野の経営統合はメリットしかありません。

問題は両社が統合すれば、国内のトラック市場のシェアの8,9割を占めてしまうことから、独占禁止法違反として公正取引委員会が統合を認めない可能性があることです。確かに国内市場シェアを考えれば独占に近くなりますが、いすゞも日野も利益の7,8割は海外で稼いでおり、そのため国内のトラック価格を抑えることができています。従って経営統合したら更に国内のトラック価格を下げることができ、顧客の利益となります。また経営統合するにしても持株会社の下にいすゞ、日野、UDがぶら下る形とすれば、当面トラックの供給・サービス体制に大きな変更はありません。実質的な経営統合は10年くらいかけて行うことになります。このように日野といすゞの経営統合には、独占による弊害よりもメリットが大きいと考えられます。このことは公正取引委員会にも理解してもらえるし、経産省や政府には経営統合を支援してもらえると考えられます。

そのためには、まずトヨタがダイムラーと結んだ経営統合に関する基本契約書を見直す(破棄する)必要があります。トヨタの認証不正発覚により事情が変わったことから、見直しの理由はありますし、経産省が国益に反すると反対すればよいのです。その後いすゞがトヨタが保有する日野株式50.1%のうち25.0%(8月10日の時価総額で約600億円)を取得する、または増資に応じることで日野に経営参加し、日野の認証業務改善に協力します。これが上手くいけば将来株式交換方式による経営統合が考えられます(トヨタの統合会社に対する持ち株割合は10%未満になる)。

日野とダイムラーとの経営統合を決めたのは豊田会長だと思われますが、このまま経営統合に突き進めば、後世歴史的誤判断と批判されることになります。また豊田会長から自工会会長を引き継いだ片山いすゞ会長も、日本のトラック業界を救えなかった人として語り継がれることになります。日野といすゞの経営統合は、自工会新旧会長の責務です。