大学で文理融合学部が増えているわけ
熊本大学は今年4月新しい学部組織「情報融合学環」を設けました。ここはデータサイエンスを基本技術として社会問題を解決できる人材養成を目的としているようです。この中には2つのコースがあります。1つはDS(デジタルサイエンス)総合コースで、「数学、統計学、情報科学などの数理・データサイエンス・AIに関する知識・技術の修得だけでなく、公共政策や教育工学等の社会科学に関する学問とコンピュータサイエンスに関する学問をバランス良く修得する文理融合型の学びを提供」するとなっています。最近多くの大学で開設されているデータサイエンス学部に該当するように思われます。もう1つは、DS半導体コースで、「半導体デバイス製造プロセスにおける各工程の品質管理や製造プロセスの最適化による工場機能の最大化等に携われる技術者、研究者を育成」するとなっています。工学部に設けた半導体プロセス工学課程を補完する分野であり、半導体工場に必要な人材をパッケージで供給しようという目的が伺えます。
情報融合学環はTSMCの熊本工場建設が決まってから創設が決まったものであり、工学部に半導体プロセス工学課程とDS半導体課程を設ければ足りたように思えます。これを情報融合学環と工学部と違った学部組織にしたのは、文系学部の再編の狙いがあったためと考えられます。熊本大学の、と言うより国立大学の文系学部は社会の変化から取り残され、古くから続く学部組織を維持してきています。熊本大学で言えば大学組織になって以来教育学部、文学部、法学部(法文学部であった時代はある)が続いています。しかし少子化により教員養成のニーズは減少していますし、文学部を卒業しても就職先がない状況です。法学部は定員220名(最大時)いても弁護士などの法曹になる人は年間数名であり、あとは学んだことが生かせる仕事に就いていない人が大部分です。このように文系学部は社会のニーズと乖離した学部構成になっているのです。TSMCのニーズを満たすためには工学部に半導体関係の学科を追加するか、半導体関係の新学部を設ければよいのですが、それでは文系学部の問題が解決しないのです。いきなり文系学部を廃止する訳には行きませんから、徐々に定員を減らして行くしかありませんが、その場合学生数に対して文系の教員が余ってしまいます。
そこで考えられたのが文理融合学部を作ることです。こうすれば文系学部の定員減少により余る教員を文理融合学部と兼任にすれば余剰にはなりません。DS総合コースは、文系学部の定員削減(半導体プロセス工学課程や文理融合学環への振り替え)による余剰教官対策として設けられたと考えられます。そのために文系入試も実施していますが、高校文系出身者は高校時代に数学を捨て暗記中心の勉強に舵を切っており、数学的な思考力が求められるデータサイエンスには不向きですから、入学後苦労しそうです。
熊本大学は7月30日、2026年4月から文理融合型の新しい学部組織を創設することを発表しましたが、これなどは文系学部の再編が主目的です。もう役割を終えた文系学部を教員の雇用を確保しながら徐々に消滅させるには、この方法しかないということだと思われます。社会的ニーズからできる学部ではないので、就職の際には苦労しそうですが、今の文系学部よりは増しです。