ビートル浸水隠蔽でJR九州の安全体制に疑義
JR九州高速船が運行する博多と韓国釜山 を結ぶ旅客船「クイーンビートル」(定員502人)で浸水が発生していることを隠して3か月以上運航を継続していたことが明かになりました。読売新聞の記事によると、今年2月12日に船首部分で2~3リットルの浸水が確認され、田中社長に報告されましたが、田中社長からは国土交通省には報告せず運行を続けるよう指示があったということです。かつこの際には法令で義務づけられた検査や修理も行いませんでした。さらに設備の不具合などを記載する航海日誌や整備記録には「異常なし」と虚偽記載をした上で、外部には出さない「裏管理簿」を作成し実際の浸水量を日々記録していました。そしてそのまま運航を継続し、その間は1日の浸水量は2~20リットル程度で、港に停泊中にポンプで排水していたということです。しかし、5月27日に突如、浸水量が736リットルに急増した結果、当初船首部分の船底に設置されていた浸水警報センサーを高さ44㎝まで引き上げて設置していたものを、更に1メートルまで引き上げて設置し、センサーが鳴らないようにしました。そして航行中もポンプで排水しながら運航を継続していました。その後、浸水はさらに悪化し、5月30日には1メートルの高さまでずらした警報センサーが鳴ったことから、JR九州高速船はこの時点で初めて浸水が確認されたように偽装して国交省に報告し、船はドック入りしました。この際船首部分に1.1メートルの亀裂が見つかったということです。船は修理を終えて7月11日に運航を再開しますが、8月6日に国交省の抜き打ち監査があり、乗務員への聞き取りで隠蔽が発覚したということです。
これは一歩間違えば沈没事故にもつながる重大な法令違反行為であり、JR九州という多くの鉄道事故を経験し、安全運航に最大の価値を置いているはずの企業の子会社で行われていたことは驚きです。安全への認識が鉄道と船で違うということは無いはずであり、JR九州の鉄道でも同じような隠ぺい工作が行われているのではないかと心配になります。私がそれを最も感じたのは、8月16日の記者会見にJR九州の古宮社長が出席していなかったからです。古宮社長としては、たいしたことではなく自分が出席することではないという判断だと思われます。これにはJR九州の安全に対する認識が良く表れていると思われます。もしJR九州が本件をJR九州全体の安全性体制の綻びと認識すれば、古宮社長自ら記者会見に出席に、JR九州全社の問題として安全性の見直しを行うと表明すべきでした。
古宮社長は、洪水被害で一部線路が失われ運行停止状態にある肥薩線復旧に対して、再三JR九州としては採算性がない限り復旧には応じられないと言いながら、復旧を主張する熊本県の蒲島知事の任期切れ直前になって突然復旧方針を受諾しました。この際にも古宮社長は密かに蒲島知事と会談し、受諾の記者会見は開きませんでした。このように古宮社長は重大な局面では表に出てきません。鉄道会社では安全性が最も重要であり、これに不安を抱かせる事例が見つかったら、社長自身が表に出て徹底的に対策を実施する決意を社会に表明する必要があります。これをやらなかった古宮社長は鉄道会社の社長には不適であり、退任すべきだと思われます。