AIが駆逐するのは一般事務職ではなく専門職

8月20日熊本県庁で開かれた「くまもとで働こう」推進本部の会議で、熊本県内では去年10月から求人数に対して求職者数が6,000人から8,000人ほど下回っており、一般事務の応募は多い(求人の3倍)のに対し、建築・土木・介護サービス職などいわゆるエッセンシャルワーカーが不足していることが報告されました。これに対して木村知事が「私の心の中の長年の持論が証明された。逆をみると足りていてどうしようもないのが、一般事務とかは、要はいらないんですよ。そういう若者を育てちゃいけないんですよ、僕らは。教育長に過激な言い方だけど、普通科なんかいらないと僕は思っているのね」「一般事務は全部AIが代行する。これから必要なのは、エッセンシャルワーカーだ」と述べたことが新聞などで報道され、ネットで批判が渦巻きました。そのため8月23日木村知事は記者会見で「事務職をなくすとか、県内の普通科高校を撤廃するとかそういうつもりはまったくございません」 「専門の科の、夢を持っている人達に光を当てたいという思いもあった」「それが(発言が)どう切り取られるか十分ふまえていなかった。発言には気を付けていきたい」と釈明したということです。

ここでは木村知事の「一般事務は全部AIが代行する。」発言の間違いを正したいと思います。結論から言うとAIが代替するのは専門的な職業であり、一般事務職ではありません。それはAIが高度なプログラムであり、単純な事務作業や対人窓口業務はなじまないからです。AIは高度なプログラムですから、専門的な知識に基づく判断や書類作成プロセスを解析しプログラム化します。専門的な知識と言うのは、論理的・合理的に構成されており、数理解析を用いればプログラムに組める構造に分けられます。だから数学的素養のある高度なプログラマーにとっては腕の(能力の)見せ所です。

私が将来AIが取って替わると思うのは内科医です。腹痛で内科の開業医に行くと分かりますが、問診はせいぜい数句「どこが痛いですか」「下痢はありますか」「いつからですか」「熱はありますか」くらいです。そして「薬を出しておきます。これで様子をみましょう」で終わりです。検査をすることはありませんし、診断名を言うこともありません。まるで占い師のようです。これでもやっていけていますから、それなりに当たっているのだと思われます。たぶん腹痛の原因にはパターンがあり、5割はAが原因で第一選択薬としてはXを処方する、3割はBが原因で第二選択薬であるYを処方する、それでもだめなら第三選択薬であるZを処方するというように決まっており、それでもだめなら大病院に回すとなっているように思われます。開業医の場合これを長い間やっていることから、慣れにより雑に扱われることが多いです。

これならタブレットに100の問診を用意し、患者に選択させ、AIが診断した方が正しい診断ができることになります(AIではなく普通のプログラムの領域かも)。内科で行う血液検査や内視鏡・超音波検査・CTの画像でもAIで診断した方が正確になります。例えば100人の患者を1人の内科医と1個のAIが診断し、結果を比べたらAIの正解率が高いと思われます。もちろん外科医など手術が必要な分野は当面AIで代替することは不可能です(将来は手術ロボットが代替するかも)。

その他には国際取引契約書の作成、裁判官の判決文の作成、公認会計士の監査もAIが代替できるようになるはずです。いずれも事実に基づきある規則を適用する業務であり、人よりもAIの方が正確かつ迅速にできます。

一方一般事務はAIがやるには単純すぎますし、業務が多様にわたるためプログラム化が難しいと思われます。また一般事務を見れば分かりますが、社内で人と物を仲介する業務でもあることが多く、ある意味絶対になくならない業務と言えます。ネット販売が増えたら運送配達業務が増えるのと同じで、社内業務のAI化、システム化が進むとそれらのインターフェース業務として一般事務職は増えるかもしれません。

このように一般事務職はAIの対象ではないことから、一般事務職がAIに代替されることは無く、絶対になくならない最強の職種とも言えます。AIに取って代わられることを心配すべきは、賢そうに見えてたくさんの規則を覚えたに過ぎない専門職です。