経産省がベンチャーキャピタル化してきた

経産省がベンチャーキャピタル化してきました。8月27日斎藤経産大臣は、次世代半導体の量産を目指すラピダスに対して政府が出資することを検討していると明らかにしました。そのための法案をこの秋の臨時国会に提出する予定とのことです。

ラピダスは2022年8月、キオクシア、ソニーグループ、ソフトバンク、デンソー、トヨタ自動車、NEC、NTTおよび三菱UFJ銀行の計8社から73億円の出資を得て設立されていますが、出資額を見ると三菱UFJ銀行(3億円)以外の7社は10億円で並んであり、各社ともお付き合い出資であることが分かります。経済産業省が音頭をとって半導体関連の大手企業に出資を募り、多くが断った中でこの8社が断れなかったものと思われます。従って実質的には経産省傘下の国策企業であり、これまで試作工場建設やIBMからの技術導入などに必要な資金約1兆円を経産省が補助金という形で提供しています。その結果試作工場は2025年6月頃に完成するようですので、ラピダスの企業価値は数倍に上がっていることになります。この恩恵は形式的な株主である8社が享受しており、国から株主8社に利益供与していることになります。ラピダスは量産開始までに約5兆円の資金が必要となると言われており、今後この資金も国が中心となって提供するとなると、8社に代わり国が中心株主になるのは当然と言えます。たぶん経産省傘下の産業革新機構が株式の過半数以上を取得し(出資し)、さらに国(または産業革新機構)がラピダスの銀行借入に債務保証することになると思われます(そういう法案を通す)。ラピダスの実体はベンチャー企業であり、経産省がやっていることはベンチャーキャピタルと同じです。

もう一つ経産省のベンチャーキャピタル化が分かる事業があります。それは民間小型ロケット打ち上げ企業スペースワン社への支援です。スペースワン社の株主は、キヤノン電子、IHIエアロスペース、清水建設、日本政策投資銀行、紀陽銀行、合同会社K4 Ventures、太陽グループ、三菱UFJ銀行、アズマハウス、オークワとなっており、民間企業の外形をとっていますが、事業の中心となる親会社が見当たらないことから、経産省から要請を受けたロケット関連企業と発射場がある和歌山の企業がわずかばかり引き受けた偽装民間企業であり、ラピダスと同じ経産省主導企業であることが分かります。そのためスペースワン社の社長には元経産審議官の豊田正和氏が就任しており、今年3月13日の初回打ち上げが失敗した際も「スペースワンとしては失敗と言う言葉は使いません」と述べ、余裕の態度でした(今年12月に2号機を打ち上げるとのこと)。また豊田社長の発言の後に経産省の局長がオンライン出席して斎藤大臣のコメントを発表し、経産省が全面的に面倒を見ていることを示しました。スペースワン社のロケットは、打ち上げ実績があるJAXAの小型ロケットイプシロンであり、出資もしているIHIが製造していることから、打ち上げ成功は間違いないと思われます。ただし採算性は未知数です。経産省がスペースワン社を育成しようとする意図は、世界の小型ロケット市場に参入できる日本企業を作ること以外に、将来軍事紛争が発生したときに三菱重工と並び軍事ロケット/ミサイル(固体燃料)を製造することができる企業を確保する意図もあると思われます。

これまで経産省は既存の大企業や中小企業の設備投資や研究開発投資の支援が中心でしたが、上記2例では経産省が中心となってベンチャー企業を設立し、必要資金は丸ごと提供しています。これは民間ベンチャーキャピタルと同じスタイルです(規模は全く違う)。

民間ベンチャーキャピタルの投資視点は、①事業が成長分野に属していること、②社長を中心とした経営陣が事業を成功に導けるだけのスキルを持ってこと、の2点に集約されますが、上記2社への投資についてみると、①はよいとしても②に問題があるように思われます。ラピダスの東哲郎会長は75歳、小池淳義社長は72歳、スペースワン社の豊田正和社長は75歳と高齢であり、健康面の不安があるため民間ベンチャーキャピタルなら投資しません。豊田社長に至って官僚であり、ロケットに関する知見も有しないばかりが経営の経験もありません。これを見ると経産省は、事業の成功は資金量にかかっており、経営者(陣)はどうでもよいと考えていることが伺えます。これはソフトバンクグループが失敗したやり方です。

民間ベンチャーキャピタルの投資担当者は、サラリーマンなのに資本家の気分が味わえることから「サラリーマン資本家」と言われ、一般のサラリーマンとは違う醍醐味が味わえます。そのため民間ベンチャーキャピタルで投資担当者を長くやると、一般のサラリーマンには戻れなくなり、投資業務がやれる会社を渡り歩くことになります。産業革新機構に参集しているのはこういった連中です。産業革新機構の魅力は投資資金集めが不要なことと、投資に失敗しても誰の懐も痛まないこと(怒る人が誰もいないこと)です。経産省の投資も同じであり、責任を負う人を明確にしないと(投資を推進した局長、部長、課長は投資が失敗した場合責任をとって辞職する)モラルハザードを招きます。