第一工場前の25haの用地には必ずTSMCの工場が建つ

台湾の半導体メーカーTSMCが第一および第二工場を建設している熊本県菊陽町は、TSMC第一工場の南側の農地や山林約25ヘクタールを買収し、工場用地を造成する計画に着手するという報道です。新聞やテレビで報道されるTSMC第一工場の映像を見ると、道路の反対側に広大なキャベツ畑が広がっていることに驚かされます。あのキャベツ畑を買収し工場用地を造成するということです。TSMCは第一工場の東側土地を買収し第二工場の建設に着手しており、2027年の完成を目指していますが、関係者の間では将来第三工場が建設されかどうか、建設される場合その場所がどこになるのかが関心を集めています。TSMCとしては現在、第一工場を今年の秋順調に立ち上げること、そして2027年に第二工場も順調に立ち上げることまでしか頭にないと思われます。しかし日本では各自治体が熊本ばかりに良い思いをさせられないと第三工場の誘致に動いていると思われます。そんな中で第一工場と第二工場が立地するというアドバンテージがある熊本の菊陽町が第一工場の目の前の土地を差し出すべく確保に動いたことになります。人口4万人の町としては英断と言えます。

この報道と同じ日のヤフーニュースには~日本の半導体業界の焦点「TSMC第3工場」は熊本以外へ~という記事(会社四季報オンライン)が掲載されていました。熊本県や菊陽町の関係者が見たらドキッとする記事ですが、まだ決定した内容ではなく、記者の予想記事のようです。この記事では、第三工場の立地決定に当たっては半導体を研究する有力大学との連携が重視され、そのような大学がある地域に立地するという予想を立てています。これは台湾でTSMCが台湾大学や陽明交通大学と連携して製造技術を発展させてきており、日本の第三工場の立地に当たっても同じような環境を求めると考えてのことです。そうなると半導体研究が盛んな産業技術総合研究所があり東大などの都内の有力大学に近い筑波を中心とした地域が最も有力となると予想しています。その他京大がある京都府や東北大学がある宮城県をありうるとしています。そして穴馬として北海道を上げ、これはラピダスが運営に行き詰まりTSMCが買収する場合としています。

第三工場の立地を予想するに当たっては、先ずTSMCが熊本に工場を作った理由を考えてみる必要があります。それはTSMCが半導体を供給する大口顧客であるソニーのCMOSセンサー(スマホカメラなどに使われている)工場があったからです。その頃半導体の供給が逼迫し、台湾と中国の緊張激化からTSMCの顧客にとって台湾だけからの供給に頼るのは経営的に危険と考えられていました。ソニーのCMOSセンサーの最大顧客はアップルであり、TSMCからの供給が途絶えればアップルも大きなダメージを被ります。そこでソニーはTSMCに日本で製造することを要請し、その結果TSMCが日本政府からの補助金を条件に了承したと考えられます。

TSMCの日本法人JASMにはソニーも出資すると共に、社長の他200人以上を出向されており、実質TSMCとソニーの合弁会社の様相を呈しています。そして第一工場の建設にあたり関係当局や建設会社との折衝にはソニーの社員が当たったと思われ、そのため約1年8カ月という短期間で建屋が完成するに至っています。このことからもTSMC第一工場はソニー専用の半導体工場であることが伺えます。第二工場についてもソニーの第二工場建設と歩調を合わせており、主にソニー向けであることが伺えます。このようにTSMCの第一および第二工場の立地に当たっては、大口顧客であるソニーCMOSセンサー工場の存在が決め手になったことは間違いありません。

第三工場ですが、線幅3nm以下の半導体を生産することになると言われており、その場合ソニーのCMOSセンサーにこの規格の半導体を使うとなれば、熊本に立地する可能性が高いと思われます(第二工場は6nmまでの製品を製造すると言われており、これはソニーの次期CMOSセンサーに使われるものと思われる。第一工場は12nm以上)。そうでないとすれば3nm以下の半導体を使う企業は日本には少ないと言われており、採算性が問題になりますから、第三工場は3nm以下の先端半導体ではなく自動車などに使われる旧来型半導体を生産するために建設されることが考えられます。その場合、第三工場は熊本となり、今回菊陽町が造成する第一工場前の用地に建設されることが有力となります。このように第三工場は先端半導体を生産するか否かで建設の可否、および立地が変わることが予想されますが、いずれにしても菊陽町が取得する第一工場前の用地には間違いなくTSMCの工場が建設されると思われます。