ビートル浸水隠蔽はJR九州古宮社長が辞任しないと再発防止効果なし

8月15日JR九州高速船が運行する博多と韓国釜山 を結ぶ旅客船「クイーンビートル」(定員502人)で浸水が発生していることを隠して3か月以上運航を継続していたことが明かになりました。読売新聞の記事によると、今年2月12日に船首部分で2~3リットルの浸水が確認され、田中社長に報告されましたが、田中社長からは国土交通省には報告せず運行を続けるよう指示があったということです。かつこの際には法令で義務づけられた検査や修理も行いませんでした。さらに設備の不具合などを記載する航海日誌や整備記録には「異常なし」と虚偽記載をした上で、外部には出さない「裏管理簿」を作成し実際の浸水量を日々記録していました。そしてそのまま運航を継続し、その間は1日の浸水量は2~20リットル程度で、港に停泊中にポンプで排水していたということです。しかし、5月27日に突如、浸水量が736リットルに急増した結果、当初船首部分の船底に設置されていた浸水警報センサーを高さ44㎝まで引き上げて設置していたものを、更に1メートルまで引き上げて設置し、センサーが鳴らないようにしました。そして航行中もポンプで排水しながら運航を継続していました。その後、浸水はさらに悪化し、5月30日には1メートルの高さまでずらした警報センサーが鳴ったことから、JR九州高速船はこの時点で初めて浸水が確認されたように偽装して国交省に報告し、船はドック入りしました。この際船首部分に1.1メートルの亀裂が見つかったということです。船は修理を終えて7月11日に運航を再開しますが、8月6日に国交省の抜き打ち監査があり、乗務員への聞き取りで隠蔽が発覚したということです。

これを受けて親会社のJR九州は、9月3日外部の専門家からなる第三者委員会を設置したということです。JR九州は、運航会社の当時の社長が隠蔽を指示したと説明し、8月15日の記者会見にはJR九州の古宮社長は出席していませんから、JR九州本体とは無関係であり、あくまで子会社の問題という姿勢のように思われますが、果たしてそうでしょうか。

Wikipedia「日本の鉄道事故」によれば、2000年以降JR九州関連事故は次の通りとなっています。

2002年 鹿児島本線列車衝突事故          134名重軽症

2003年 長崎本線特急脱線転覆事故         36名重軽症

2005年 新飯塚駅構内列車衝突事故         1名負傷

2006年 日豊本線列車転覆事故           6名負傷

2012年 鹿児島中央駅構内列車脱線事故       負傷者なし

2014年 指宿枕崎線特急「指宿のたまて箱」脱線事故 15名重軽症

2017年 唐津線踏切衝突事故            負傷者なし

2017年 直方車両センターにおける脱線事故     負傷者なし

2018年 福北ゆたか線におけるトレーラー進入事故  負傷者なし

2022年 豊肥本線車両トラブル           負傷者なし

2023年 九州新幹線新玉名駅における人身事故   1名死亡

2024年 JR豊肥線オーバーラン          負傷者なし

2024年 九州新幹線人身事故            死亡1名

これを見ると最近10年間大きな事故は起きていませんが、負傷者がいない事故も外部に公表されていることから、JR九州の安全意識が高いことが分かります。実際鉄道事故が起きると被害者が多数に上ることが多いことから、鉄道会社においては安全運行が最優先課題に位置付けられています。JR九州においても現場においては毎年様々な安全教育がなされているようですが、経営レベルでは鉄道部門は赤字であり、実質的に経営を支えているのは不動産事業であることから、経営陣に安全意識が希薄になっているように感じられます。その証拠が8月15日の記者会見に古宮社長が出席しなかったことであり、ビートル浸水隠蔽事件は古宮社長にとって重大な出来事ではなかったようです。2022年4月に発生した知床遊覧船事故の教訓が全く生かされておらず、JR九州の安全意識は経営レベルでは形骸化していると言ってよいと思われます。

このJR九州の古宮社長の対応を見ていると、損保ジャパンの保険不正に対する対応と重なります。損保ジャパンも当初は問題を軽視し、実質的経営責任者である損保ホールディングングスの桜田会長は第1回目の記者会見に出席しませんでした。その後問題が大きくなって第2回目の記者会見に出席しましたが、「私への報告が遅かった。もっと早く報告されていれば防げた」と逃げの一手でした。桜田会長は経済同友会代表幹事も務めた実力者であり、損保ジャパン内外から損保ジャパンの天皇と言われていました。従って調査に入った金融庁は当初から、再発防止のためには桜田会長に責任を取らせることが不可欠と考えており、その通りの結果となりました。

ビートル浸水隠蔽事件も、子会社の問題として片付けては再発防止策にはならず、JR九州本体の問題として古宮社長の辞任が不可欠です(実権が青柳会長にあるのなら両者の辞任が必要)。