日本の大学授業料は韓国の2倍、学力は2分の1?

慶大の伊藤公平塾長が3月に中央教育審議会で国立大学の授業料は今の約3倍の150万円まで上げる必要があると述べたことから、国立大学が授業料引き上げに動いています。先ず先陣を切って9月10日東大が2025年度に入学する学部生から授業料を2割値上げし、現在の年間53万5,800円から64万2,960円とする方針を明らかにしました。これを受けいくつかの国立大学が検討していることを表明していますし、文部科学省は有識者会議を設けて一斉値上げに持っていく企みです

伊藤塾長は値上げの理由として、「欧米の大学の授業料は最低300万円であり、これくらいの授業料でないと良い教育はできない」と述べましたが、後日ヨーロッパでもフランス、ドイツ、オーストリアなど大陸の国では大学授業料は無償であることが指摘されると、

「諸外国と比較するときに注意しなければならないのは、日本の大学の特徴的なあり方です。ヨーロッパの大学はほとんどが国立です。アメリカはハーバードやスタンフォード、MIT(マサチューセッツ工科大学)などの有名校は私立ですが、私立の学生は全体の30%程度で、70%は州立大学の学生ですそれに対して、日本では国立大学の学生が16%、公立大学が3~4%で、残る8割が私立大学に通っているのです。2割しかいない国公立大学の学生の学費だけを税金で賄うのでは、全体の底上げができるはずがありません。国公立・私立という設置形態にかかわらず、個人負担のおおよその均一化が必要なのです。 そこで重要なのは、まずは給付型奨学金制度の拡充などアクセス保障の確保ですが、より根本的には機関補助から個人補助への転換です。」(中央公論WEB版)と述べていますが、自説を通すために不利な事実を隠したことは明白であり、学者に有るまじき態度です。それに説明が支離滅裂です。日本の場合大学生の8割は私立大学生だから「2割しかいない国公立大学の学生だけ税金で賄うのでは、全体の底上げができるはずがありません」と言っていますが、国立大学授業料を150万円まであげることがどうして「全体の底上げ」になるのでしょうか。授業料が私立に比べて安い国立だから進学できる学生もたくさんいます。これが150万円に上がったら大学にいけない学生もたくさん出ます。伊藤塾長はこれは給付型奨学金で救えると言っていますが、その場合給付型奨学金の原資は税金であり、多くの学生に出せるはずがありません。それに給付型奨学金の対象でない所得が1,000万円の家庭でも税金や社会保険料負担(約50%)を除くと可処分所得は500万円であり、ここから150万円の授業料を支出することは簡単なことではありません。子供は1人が限界です。こう考えると伊藤塾長の主張は世間知らずのお坊ちゃまの発想であることが分かります。

伊藤塾長の頭には慶大がモデルとする米国の私立大学ハーバード大、MIT、スタンフォード大、英国の私立大学オックスフォード大やケンブリッジ大の授業料(年間6万ドル以上)があるようなので、慶大はこちらを目指して授業料300万円にすればよく、国立大学授業料を150万円に引き上げよというのは言いがかりとしか思えません。

フランスやドイツは国民の学力を向上させ、経済や国力を底上げするために国立大学授業を無償化しているのであり、その結果高い経済力や国力を維持しています。一方日本は、大学教育の受益者は学生個人として、国立大学の授業料を実質無償レベルから現在の53万円台に引き上げてきました。その結果家計の所得が低迷する中で授業料を自分で稼がなければならなくなった学生はアルバイトに明け暮れることになり、大学生の学力は低下し続けています。1人当たりGDPで韓国に抜かれたばかりか、台湾にも抜かれた背景には、日本人の学力低下、特に大学生レベルの学力で韓国・台湾の学生に大きく劣っていることがあります。

そう断言できる理由は、韓国の大学授業料を見れば分かります。韓国の東大に当たる国立ソウル大の年間授業料は、文系で約28万円、理系で約33万円です。韓国の早慶に当たる延世大は、文系で約38万円、理系で約51万円です。文系、理系とも日本の半分程度となっています。韓国の受験競争の激しさは良く知られていますが、大学に入学したら安い授業料(登録料という)で教育を受けられることが分かります。では大学のレベルが低いのかというとそんなことはありません。イギリスの教育専門誌Times Higher Educationの世界大学ランキング(2024年版)で言えばソウル大学が62位であり、東大29位、京大55位と比較しても遜色ありません。私立の延世大学は76位であり、慶大が601~800位となっていますから遥かにレベルが高いと言えます。総じて韓国の私立大学はレベルが高いようです。

さらに大学新卒就職率は80%程度と言われていますから、大学で勉強しないわけには行きません。そして企業に入社しても実績主義が徹底していますから、努力を怠れません。それが韓国企業躍進の原因であり、サムスンの半導体、スマホ、テレビなどの高品質に繋がり、K-POPの洗練されたプロデュース力になっています。これを見ると日本が韓国に追いつくには、日本人の学力を上げることが不可欠であり、そのためには大学授業料を韓国並みに下げること、さらに進んで無償化することが必要であることが分かります。伊藤塾長の国立大授業料150万円論は、日本を沈没させる暴論論です。