ラピダスの悲惨な未来が見えてきた

経産省が先端半導体の生産を目指して設立したラピダスの悲惨な未来が見えてきました。ラピダスのことを民間企業だと思っている人がいると思いますが、それは違います。ラピダスの出資先はキオクシア、ソニーグループ、ソフトバンク、デンソー、トヨタ自動車、NEC、NTTおよび三菱UFJ銀行の計8社であり、外形上は純粋な民間企業です。しかし出資額を見ると三菱UFJ銀行(3億円)以外の7社は10億円で並んであり、お付き合い出資であることが分かります。この形は経済産業省が音頭をとって半導体関連の大手企業に出資を募り、多くが断った中でこの8社が断れなかったものと思われます。ラピダスが軌道に乗るためには少なくとも5兆円の資金が必要と言われており、これを出せる企業は見当たりませんし、ラピダスの損失で親会社が巨額の赤字計上に追い込まれてしまいます。ラピダスは経産省が補助金を出すための偽装民間会社であり、それは会長や社長が70台の退役経営者であることでも分かります。

コロナ禍や中台関係の緊張で半導体(ロジック)供給が逼迫し、自動車など多くの半導体を使う産業で商品が製造できなくなったことから、世界中で半導体工場を自国内に持つ動きが進んでいます。世界最大の半導体消費国である米国は世界1,2の半導体ファンドリ企業である台湾TSMCと韓国サムスン電子の先端半導体工場を誘致しました。これに負けじと日本もTSMCの半導体工場を熊本に誘致しましたが、こちらは先端半導体ではなくソニーの熊本工場で生産されているCMOSセンサーに使われている旧来型半導体です。TSMCがソニー向けに生産していた台湾工場の生産ラインを熊本工場に移設したようなものです。従ってTSMCの熊本工場は製品の顧客は確保されていますし、建設資金として日本政府から第1工場および第2工場合計で1兆2,080億円の補助金を獲得していますから、黒字化は間違いありません。

経産省としては先端半導体の工場も欲しいのでしょうが、線幅3nm以下の先端半導体の顧客は日本にはいないと言われており、TSMCとしては補助金が出たとしても作れる状況ではありません(先端半導体の顧客は米国が中心)。そこでラピダスの登場となったわけですが、旧来型半導体(ロジック)生産も途絶えた日本がいきなり先端半導体を作れるのか問題になるところです。これにはIBMが2nm半導体の生産技術を確立しており、これの提供を受けることで解決できるとしています。しかしIBMが事業化しなかった理由が気になるところです。最近になってこの理由がファンドリ他社の動向から明かになってきています。

先ず米国政府の要請でファンドリ事業を始めたインテルはこれが原因で巨額の赤字(2024年6月中間期で営業赤字30億㌦)を計上し、ファンドリ事業のリストラと分離を発表しました。ファンドリ事業の今年6月中間期の売上高は87億㌦となっており、売上はそこそこありますが外部への売上は1億ドルとなっており、殆どが自社消費分のようです。これで赤字ということは、生産コストがファンドリに外注するより高価になっているということであり、歩留まりが悪い(不良品が多い)ことが伺えます(生産しているのは10nm半導体と言われている)。この問題はテキサス州に先端半導体工場を建設したサムスン電子でも発生しているようであり、サムスン電子はテキサス工場の稼働を停止し、派遣した韓国人要員を韓国に引き揚げたと言われています。さらに韓国国内の工場でも歩留まりに問題があると言われています。一方TSMCの台湾にある最先端半導体(3nm)の工場は順調であり、先端半導体を必要とするユーザーの殆どがTSMCに発注していると言われています。しかしTSMCは米国アリゾナに建設中の先端半導体工場の建設が遅れているばかりか、従業員の習熟度と働き方が台湾と大きく異なることから、生産に当たっては台湾の工場から従業員2,000人以上を派遣すると言われています。これで上手くいかない場合TSMCの屋台骨を揺るがす事態になることも考えられます。

このように最近世界各地で半導体工場の建設が始まった結果、一時的に生産過剰になることも考えられます。9月27日に日本のSBIが台湾の半導体ファンドリ企業PSMCと共同で宮城県に建設を発表していた半導体工場計画の中止が発表されました。理由はPSMCとして採算に合わないと判断したとのことですが、日本政府の補助金が得られなかったか少なったこと、想定した受注が得られそうもないことが背景にあると思われます。

最近のこれらの事実を考えると、ラピダスの事業の困難さが見えてきます。ラピダスの場合、製造技術の蓄積がないことから歩留まり向上で苦労しそうですし、インテルでも難しい顧客の確保の問題もあります。インテルで分かるのは、先端半導体を生産するファンドリはTSMC1社あれば足りていることです。それに業界2位のサムスン電子がありますから、入り込む余地はないように思われます。今思うとラピダスはとんでもない事業に踏み込んでしまったという印象です。

尚、9月27日にメガバンク3行が50億円、日本政策銀行が100億円ラピダスに出資することが決まったとの報道がありましたが、これは政府保証による融資利息で回収される(融資がメガバンク一行当たり2,500億円で2%の利ザヤがあるとすると年間50億円の利息収入があり出資額は1年で回収できる)ものであり、事業が成功すると判断したものではありません。これがなければ出資は難しいです。