トラックメーカーは国内1社体制しかない
日野自動車(日野)の9月中間決算は、最終損益が2,195億円の大赤字となりました。これは北米向けディーゼルエンジンの認証不正に伴い、米国当局との和解費用として2,300億円を計上したことが要因です。期間損益でみれば売上高8,475億円(前年同期比12.2%)、営業利益194億円(同209.1%)であり、悪くありません。2025年3月期の最終損益も2,200億円の赤字になる見通しとしていますから、下期にも200億円程度の特別損失を計上するものと思われます。
この結果バランスシートを見ると自己資本比率は17.7%(自己資本2,506億円。ちなみにいすゞ自動車は1兆6,590億円)となっており、今後電動化や自動運転などで多額の開発投資が必要なことから単独で生き残るのは困難と言えます。これの原因となったエンジン不正については、これから再認証を取得しなければならないエンジンもあり、経営の正常化には時間が掛かりそうです。
これを見越して親会社トヨタは、2023年5月ダイムラートラック(ダイムラー)とダイムラー傘下の三菱ふそうトラック・バス(三菱ふそう)と日野を経営統合させる基本契約を締結しました。経営統合は2024年中としていましたが、今年の2月エンジン不正の対応が長引いていることや国の許認可が遅れていることなどを理由に延期すると発表しました。しかし日野のこの決算を見ると、延期の最大の理由は米国などでの損失が巨額となりそうなことだったようです。日野の財務がこれだけ痛むと2社がぶら下る持株会社の持ち株割合は、ダイムラーがトヨタより多くなり日野は実質ダイムラーの子会社となってしまいます。こうなると日野のユーザーには大手運送業者やトヨタの取引先も多いことから、ユーザーの日野離れが起きることが心配されます。ダイムラー傘下に入った三菱ふそうはその後売上を落としており、ダイムラー流(ドイツ流)のやり方が日本のユーザーに嫌われていることが伺われます。ダイムラーとトヨタの共同経営と言ってもダイムラーが事業運営でトヨタに妥協するとは考えられず、結局日野もダイムラー流のやり方を受け入れるしかなくなります。この結果日野は第2三菱ふそう化することになります。このことは日野の経営陣や社員が一番恐れていることです。
この結果日野のユーザーの多くがいすゞ自動車(いすゞ)に移ることから、いすゞとしては悪くないでしょうが、大型トラック保有台数の半分以上がダイムラーに押さえられることになり、日本としては大損失です。こう考えると日野は三菱ふそうではなくいすゞと経営統合することが日本の国益にかなうことになります。トヨタの豊田会長も当初いすゞとの経営統合が頭に浮かんだと思われますが、この場合大型トラックのシェアが7割、小型トラックでは8割近くになることから、独占禁止法をクリアできない(承認されない)と考え、不可能と判断したと思われます。しかし本当に不可能でしょうか?次のような視点にたてば事実上日野といすゞの経営統合という選択肢しかなく、公正取引委員会も承認せざるを得ないことが分かります。
1.日本のトラック保有台数の過半数以上をダイムラーが握るのは日本の国益に反すること
2.日野といすゞが統合すれば世界で戦える日本のトラックメーカーが誕生すること
3.今後国内トラック市場は縮小が予想されており、販売台数的にも国内トラックメーカーは1社で十分なこと
4.現在架装遅れで納車が、メカニックの不足で修理点検業務が遅延しており、これを解決するには国内トラックメーカーを1社にして車種車型や部品の削減、サービス工場の一体運営や大規模化が必要なこと
5.国内1社体制だと利益の8割は海外で稼ぐことになり、これが国内トラック価格の値上げ抑制に繋がること
これを実現するためにはトヨタとダイムラー間で結んだ経営統合に関する基本契約の解消が必要となりますが、日野の決算を報じた10月30日付けのレスポンスの記事では
“決算の席上、日野の幹部は「協議は前向きに進んでいる」と述べたものの、厳しい経営環境からみれば破談の協議が前向きに進んでいるとも推察される。”
と書いています。