ラピダスは1社官民ファンド、5兆円溶かす!

ラピダスが募集していた1,000億円の出資が集まりそうとの報道です。日本政策銀行、メガバンク3行で250億円出資するほか、最初に出資した8社(キオクシア、ソニーグループ、ソフトバンク、デンソー、トヨタ自動車、NEC、NTTおよび三菱UFJ銀行)全社が追加出資に応じることになったようです。8社の中でトヨタとデンソーが最後に報じられましたから、社内的に反対もあったようです。当然でトヨタとデンソーはラピダスが作ろうとする先端半導体(2nm以下)は必要としないからです。経産省の圧力に屈したものと思われます。これらの顔ぶれで1,000億円行くとは思えないことから、経産省所管の産業革新機構が500億円以上を出資するものと思われます。この後経産省の補助金9,200億円でラピダスが建設した工場および設備(経産省が所有権を持つ)が経産省の現物出資(出資金)に振り替えられると言われていますので、ラピダスは経産省が8割以上の株式を有する官民会社となることになります。

この形態は明治維新に欧米の技術を導入するために国が官営企業を設立したのと似ています。今回は補助金から入りましたから、受け皿企業は民間企業である必要があり、8社に出資を求めて民間会社を偽装しています。

ラピダスが立ち上がるためにはトータルで5兆円の資金が必要と言われていますが、軌道に乗る見通しは全く立ちません。韓国サムスン電子が米国政府の求めに応じて米国テキサス州に最先端半導体(3nm)の工場を作りましたが、顧客が確保できず稼働を2026年に延期しました。このためサムスン電子は、オランダASML社に発注した極端紫外線露光装置のテキサス工場への納入据付を延期したと言われています。同時に韓国内の先端半導体工場も歩留まりが6割程度で、TSMLと比べ1割以上悪く顧客確保に苦戦していると言われています。一方TSMCは顧客に米国エヌビデア(画像処理プロセッサGPUで世界シェアの約8割を持つ)を抱え、先端半導体の製造を一手に引き受けていると言われています。先端半導体の製造には厳しい工程管理が不可欠であり、熟練の技術者と柔軟な労働体制(不具合が発生したら夜でも駆け付ける)が不可欠と言われています。これを満たせるのは台湾のTSMC工場だけのようです。

こんな中でラピダスはこれまで半導体を製造した経験もなく、熟練の技術者もいないことから、果たして製造できるかが最初の関門です。これについて小池社長はIBMが2nmの製造技術を確立しており、その技術を導入することでクリアできると言っていますが、IBMは事業化を見送っており、量産化の実績があるわけではありません。インテルも米国政府の要請で半導体ファンドリ事業を開始しましたが、量産化が上手く行かず(歩留まりが悪い=不良品が多い)ファンドリ事業の見直しを始めました(今第三四半期に159億㌦=約2兆3,000億円の減損を計上。ということは収益化の見通しが立たない)。半導体を自社で製造しているインテルでさえ先端半導体(と言っても10nmと言われている)の製造では苦労していますので、ラピダスのようにいきなり先端半導体を製造するというのが如何に困難か分かります。その結果インテルでは製造を委託してくれる顧客が確保できないようです(製造はもっぱら社内向け半導体)。

サムスン電子のほかインテルも先端半導体の顧客確保に苦戦しているということは、先端半導体のニーズは現在多くないということであり、TSMC1社で需要に応えられる状況です。TSMCのアリゾナ工場が稼働すれば、米国の先端半導体はアリゾナ工場で生産されることになります。その結果台湾工場には余力が生じ、他社は益々必要なくなります。こんな中実績のないラピダスが顧客を確保するのは夢物語のように思われます。そもそも日本には先端半導体を必要とするユーザは皆無と言ってよい状況のようです。日本に顧客が居ればTSMCが日本に先端半導体工場を作っています。TSMCは顧客のいる国に工場を作っており、顧客が居なければ何兆円の補助金があっても工場は作りません。

こんな状態のラピダスに投資する民間投資会社はまず無いと思われます。これは成功する確率が極めて低く、投資対象ではないことを意味します。こんな中経産省は実質国営会社にして、今後必要となる約4兆円の資金を政府保証の付いた銀行借入とつなぎ国債で調達した補助金で賄う計画のようです。これで得をするのは銀行で、ノンリスクで金利収入が得られることになります。各メガバンクが約50億円の出資に応じたのは、この金利収入があるからです。

これが分かるとラピダスは1社官民ファンドであることが分かります。通常の官民ファンドは、官民と称しながら民間の拠出はわずか(数%)であり、実質は官ファンドです。そのため収益を上げる意識は乏しく、拠出金(投資資金)を使い切って(溶かして)終わっています。官民ファンドの場合、通常複数の企業や団体に投資や出資をしますが、1社だけに投資や出資をすればラピダスのような形となります。結果は自明で5兆円溶かして終わりです。ラピダス支援の旗振り役であった自民党経産族のドン甘利明衆議院議員が今回の総選挙で落選しており、ラピダスはパトロンが居なくなった冒険船の状況です。