リスキニング以前に大学教育の強化が必要
社員が持っているスキルと会社が求めるスキルにアンマッチが大きくなっているとして、2022年10月3日岸田首相は所信表明演説で、個人のリスキリング支援として5年間で1兆円を投じると表明しました。その後10月12日に開催された日経リスキリングサミットで岸田首相はリスキリング支援の3本柱として、①転職・副業を受け入れる企業や非正規雇用を正規に転換する企業への支援、②在職者のリスキリングから転職までを一括支援、③従業員を訓練する企業への補助を拡充すると発表した。この政策の狙いは2つあり、1つは社内人材を再教育し、スキルを上げて賃上げに結び付けること、2つ目はどこででも使えるスキルを身に着けさせて社員の流動化を図ることとされています。要するに岸田政権では日本で長い間賃金が伸びなかった原因は、社員のスキルが低いこと、その結果高い収入を求めて転職できないことにあると考えていると言うことです。
会社が指定する資格を取得したら資格手当を給与に上乗せする会社もありますが、社員にとってはその分賃上げになります。しかし資格と業績の関係が検証されているわけではなく、資格取得を義務化している会社は少ないと思われます。
最近は業務のIT化が叫ばれ、多くの会社でIT資格を取るよう推奨されています。このため社内で資格試験の講座を開講したり、外部の講座受講費用を補助する会社もあるようです。私も退職後IT関係の資格である基本情報技術者試験に合格しましたが、これが業務に役立つかというとそんなことは無いと思われます。IT部門に配属された人が業務を覚えるスピードが速くなる効果はありますが、業務に使えるスキルは身に付きません。多くの資格がこのようなものであり、自社や他社で使えるスキルを身に着けるためには、実務経験が不可欠です。ということは配属された各部署で経験に応じた資格を取得させるのが本人にとって有益と言うことになります。
私は、日本の労働者(社員)のスキルが押しなべて高くないことには同意しますが、この解決方法はリスキニングよりも大学教育にあると思います。現在の大卒者の教育のレベルは以前より相当低下しているように感じられます。それは大学受験者数が最盛期の半分程度に減少し、そもそも大学入学者の学力が低下していることや、国立大学授業料が大幅に引き上げられ、学生がアルバイトに明け暮れ勉強する時間が減少していることが要因のように思われます。また企業も3年次には就職内定を出していることから、大学での勉強を殆ど重視していません。この結果学生はスキル無しの状態で入社し、会社の配属先で業務を覚えることになります。この方法では学問的基盤がないため他社でも使えるスキルに発展しません。やはり大学でやりたい仕事=業務に必要な基礎スキルを学び、会社での実践を通じてそれを発展させるプロセスを確立する必要があります。そのためには企業がジョブ型採用に切り替え、学生が大学で就きたい業務の基礎スキルを学ぶ環境を作る必要があります。普通高校を各種の高専(工業高専、法律高専、会計高専、医療高専など)に分割し、高専経由大学進学をメインロード化することも解決策になります。