兵庫知事選に組織票なんかなかった

11月17日投開票の兵庫知事選では、当初落選確実と言われていた斎藤元彦元知事が奇跡の当選を果たしました。選挙が始まった当初は斎藤氏の当選を予想する人は皆無だったと思われます(私は「当選するのでは」と考えていましたが)。新聞テレビも当選は不可能という論調でした(斎藤辞職キャンペーンを行っていたのだから当たり前)。それがSNSなどで報道されていた斎藤氏の悪事に疑義があること、斎藤氏のこれまでの実績が素晴らしいことが知られるにつれ、斎藤応援団が増殖して行きました。そして選挙期間最終週に入る頃には斎藤氏の街頭演説会に集まる聴衆の多さから見て斎藤氏が優位にたち、最終的には当選する可能性が高くなっていました。

しかし新聞はその頃も稲村和美候補優位と報道していました。下記は11月9日の読売新聞の情勢分析記事(電子版)です。

『17日投開票の兵庫県知事選について、読売新聞社は世論調査と取材を基に情勢を分析した。7人の立候補者のうち、新人で前同県尼崎市長の稲村和美氏がややリードし、前知事の斎藤元彦氏が追う展開となっている。日本維新の会を離党して無所属で出馬した新人で前参院議員の清水貴之氏は、維新支持層を取り込めていない。有権者の3割近くは態度を明らかにしておらず、情勢は変わる可能性がある。自民党は独自候補を擁立できず、自主投票の方針を決定。その結果、自民支持層は3割が稲村氏、3割弱が斎藤氏、1割強が清水氏と支持が分散した。稲村氏は、立憲民主党支持層の6割弱、国民民主党支持層の4割強を固め、無党派層の3割近くに浸透した。斎藤氏は、維新支持層の4割強、国民民主支持層の3割強、無党派層の2割強から支持を集めた。清水氏は維新支持層からの支持が2割強にとどまった。調査は11月7~9日、兵庫県を対象に、無作為に作成した番号に電話をかける方法で実施。有権者在住が判明した1501世帯の中から731人の回答を得た。回答率は49%。』

「ややリード」「情勢は変わる可能性がある」と外れたときの保険を掛けていますが、内容的には稲村氏当選を予測するものです。最近新聞の予想はことごとく外れ、逆張りする人が多くなっていますが、その理由は記事から出てきます。

先ず記事の中で「有権者の3割は態度を明らかにしておらず」と言っていますが、電話アンケートに答えたのは1501世帯のうち731人(回答率は49%)でしたから、3割などという数字は出てきません。言うなら5割でしょう。さらに言えば態度を明らにしていない有権者はアンケートに答えた731人を除く4,462,282人となります。これだけでも信頼に値しない記事であることが分かります。

また「自民支持層は3割が稲村氏、3割弱が斎藤氏、1割強が清水氏と支持が分散した。稲村氏は、立憲民主党支持層の6割弱、国民民主党支持層の4割強を固め、無党派層の3割近くに浸透した。斎藤氏は、維新支持層の4割強、国民民主支持層の3割強、無党派層の2割強から支持を集めた。」と言っていますが、この支持層で括る分析手法が間違いです。国会議員や県議会議員の場合後援会を組織していますから明確な支持層(組織票)が存在しますが、県知事選挙、特に今回のように全員が無所属で出馬している場合、後援会があるわけでもなく組織票は存在しません。自民党の場合農協や経営者・商工業者団体、立憲民主党の場合連合傘下の労働組合、国民民主党も連合傘下の労働組合を持って組織票としているように思われますが、これらの組織は県知事選において誰に投票するよう指示することはありません。この中で構成員が多いのは労働組合ですが、会社で労働組合の役割と言えば、ベースアップや賞与の支給月数、労働条件などを従業員代表として会社と協議するための便宜組織であり、組合員にとってそれ以外の意味合いはありません。組合員の多くが立憲民主党や国民民主党に投票するのは、組合に指示されたからではなく自公政権で苦しい生活を強いられているからです。従って組合員の投票行動は、個々の生活者としての投票行動として捉える必要があります。そしてこの個々の生活者が斎藤氏に期待し演説会場に押しかけていると考えれば、読売新聞の支持層別分析が如何に妥当性がないか分かると思います。

もし組織票があるとすれば創価学会です。創価学会は公明党と密接不可分ですから、斎藤知事の不信任案に県議会公明党が賛成していることから、斎藤氏に投票することはなく稲村氏に投票すると考えることができます。このように考えると稲村氏が獲得した976,637票の内訳は、創価学会票約400,000票、公務員とその家族の票約100,000票、その他は新聞報道などに同調し斎藤氏は知事に適さないと考えた一般県民に分類できます。新聞は旧来の間違った(考えない)選挙分析手法を改めないと笑いものです。