野党はラピダスへの補助金予算を否決すること
政府は12月の特別国会に補正予算案を提出し、その中で半導体産業への補助金として1兆5,000億円を計上しているということです。うち9,000億円余りはラピダスへの補助金に充てると言われています。更に来年の通常国会にはラピダス向けに4,5兆円に上る資金を供給するための法案を提出すると言われています。これは国債を原資とした補助金や出資金(2,000億円と報道されている)、銀行融資に政府保証を付けることなどを内容とするようです。政府が直接支出する補助金や出資金の額を少なく見せるために、銀行借入に政府保証を付けることにしており、補助金・出資金・政府保証額の合計がラピダスへの政府支出額となります。これまでの補助金と合わせて約5兆円になると見込んでいるようですが、こんなものでは済みません。現在ラピダスのライバルとなる台湾TSMCや韓国サムスン電子は、開発や設備投資に毎年2~3兆円をつぎ込んでいると思われ、ラピダスも毎年1兆円以上の資金が必要となります。ラピダスの場合、自社技術は何もなく、顧客も全く付いていませんから、損益が黒字化する見込みは全くありません。ラピダスが目指す2nm半導体は、TSMCやサムスン電子も生産に至っておらず、かつ歩留まりの問題を解決し受託生産可能なレベルに達するには、更に4,5年かかると予想されます。その場合必要資金は10兆円規模となり、同時にそれまでに投資した設備が回収する目途が立たないとして減損処理を求められ、赤字が数兆円に達すると予想されます。この場合出資した民間企業は出資額の評価減が求められ、出資を決定した役員は責任を問われます。政府の2,000億円の出資は民間の出資を呼び込むためとしていますが、民間企業はこのプロジェクトの困難さを良く知っているため、出資に応じないか応じても少額に留まります。政府としてもそのことは承知しており、民間企業の出資は政府支援を正当化するためのアリバイ程度の認識だと思われます。
コロナや中国と台湾の関係緊張から、台湾に工場が集中するTSMCからの半導体供給に頼るのは危険として、米国や欧州の国が自国内で半導体を製造する体制の構築に動き、米国は補助金を出して自国企業インテルに半導体ファンドリ事業を行わせるとともに、TSMCとサムスン電子の工場を誘致しました。このうちインテルはファンドリ事業が上手く行かず損益が赤字に転落し、始めたばかりのファンドリ事業の見直しに着手しました(第3四半期決算に約2兆5,000億円の減損を計上)。サムスン電子はテキサス州に3nm半導体工場の建設を始めましたが、受注の目途がたたないことから設備の搬入を延期しています。TSMCのアリゾナ工場は2025年度から3nm半導体の生産を始める計画のようですが、工場完成が計画より1年以上遅れたほかスキルや労働慣習の問題から米国人だけでは生産できず、2,000人以上の台湾人社員を呼ぶと言われています。これでは台湾工場に遥かに及ばないばかりか、TSMCの屋台骨を揺るがす存在になる可能性があります。
このように半導体ファンドリ事業を行う会社は先端半導体工場の建設により危機に見舞われています。このうち危機が一番深刻化しそうなのはサムスン電子で、テキサス工場の減損処理、撤退も考えられます。またサムスン電子は中国での売上が大きくなっていますが、中国は米国の制裁もあり自国企業による半導体生産体制を強化しており、その影響を一番受けるのはサムスン電子と考えられます。その他3nm半導体生産の歩留まりがTSMCに比べ1割以上悪く、受注が取れていないと言われています。従って来年以降危機が表面化する可能性があります。
これらを考えると実績0のラピダスが2nm半導体で1人立ちするという計画は不可能であり、今の時点で5兆円の支援を行う法的枠組みを作ることは無謀(背任)と言えます。国会で比較多数を握る野党は補正予算案からラピダスへの補助金を削除する(または減額する)必要があります。今回9,000億円余の補助金を認めれば、総額1兆8,000億円余となることから、以降経産官僚は「資金を出し続けないとこれが損失化し政府の責任問題となりますよ」と政府を脅し、どこまでも資金を引き出し続けます。青森県六ケ所村にある日本原燃の再処理工場は1993年から建設を始めましたが、今もって完成していません。一旦巨額の資金を投入したら止められなくなってしまうのです。経産官僚の狙いはこれであり、ラピダスは事業として成功する可能性はないし、巨額(10兆円以上)な損失は国民が増税という形で負担することになります(再処理工場の建設費は電力会社が負担しているが、その分を電気代に上乗せしている)。