JR九州が8月7日にビートル問題を知ったというのは嘘!
11月21日、JR九州高速船が運航する博多~韓国釜山間の高速旅客船ビートルが船内への浸水を知りながら運航していた問題を調査するためにJR九州が設置した第三者委員会の報告書が公表されました。
それによるとビートルは昨年2月にも浸水事故を起こし、同年6月23日国土交通大臣より「輸送の安全確保に関する命令」 を受けています。これは2月11日にビートルの船首右舷側外板のクラック(割れ目)からの船内浸水を認識し検査を受ける義務が生じたにも関わらず受検せず運航を続けたこと、および浸水事故を国交省に報告しなかったことを理由としています。この場合は2月12日および13日は往復、14日は片道運航を続けて、14日午後から九州運輸局船舶検査官の指示により運航を停止しています。この後JR九州高速船は、2023年7月20日に国土交通大臣に対し改善報告書を提出しました。また、福岡海上保安部から捜査を受け、同年11月8日福岡簡易裁判所から船舶安全法違反による略式命令を受け、罰金30万円を払っています。改善報告書で約束した事項の大部分は実施され、未実施はJR九州の「安全創造館21」における研修と非常時えい航訓練の2つで、これも実施が遅れているだけということです。
本件においては2023年6月にドックで修理を行っていますが、その後7月、11月および2024年1月に浸水事故が起きています。7月および11月の浸水は微量であり、九州運輸局に速やかに届出て運航継続の許可を得ています。2024年1月5日の浸水は約60㍑とかなりの量でしたがクラックが確認されなかったため、九州運輸局はドック入りまで運航の継続を許可しています。しかしその後も浸水が確認されたことから1月13日九州運輸局の指示により運航を停止しました。ドックでの検査の結果、船首右舷側外板のスロット溶接箇所にクラックが見つかったため修理を行い、1月25日に運航を再開しています。
そんな中で見つかったのが今回問題になった浸水でした。2024年2月12日船首区画に2~3㍑の浸水が確認されたのです。これに対しては新聞などで報道されたようにJR九州高速船の社長以下幹部で協議し、営業上の損失が大きいことから九州運輸局に報告せず運行を続けることにしました。そして5月30日約110㎝のクラックが発見されたことから運航を停止し、九州運輸局に報告しました。翌31日船舶検査官が臨検し「急にこんなに大きく割れるのか。本当に以前から何ら兆候がなかったのか。」と質問したのに対し、JR九州高速船の責任者は「兆候はなかった」と回答したということです。
8月6日国交省海事局が立入検査に入り、乗組員に個別ヒヤリングを実施した結果、報道されているような事実が判明しました。
報告書では、JR九州が本件につきJR九州高速船から報告を受けたのは、国交省海事局の立入検査によって一連の問題が発覚した翌日の2024年8月7日であったとしていますが、これはおかしいです。なぜならビートルが運航を停止したのは5月30日であり、その後2カ月も運航を停止していればJR九州が気付かない訳がありません。それにJR九州の経営企画部は毎月JR九州高速船から月次決算進捗状況の報告を受けており、少なくとも7月の報告では6月の売上が0となっており、異常に気付くはずです。気付けばその原因を追究することになりますが、旅客船事業の場合船に異常があったことしか考えられず、浸水事故の説明があっているはずです。というよりJR九州がビートル運航停止の情報を入手しJR九州高速船に問い合わせが行くと拙い(隠蔽したと思われる)ので、その前に社長ら幹部がJR九州の担当役員宛に報告に行きます。その際浸水の事実を知りながら5月30日まで運航していたと白状したか、5月30日に大きなクランクが確認されたから運航を停止したと説明したか分かりませんが、後者の場合聞いた方としては運輸省の検査官と同じようにこれだけ大きなクランクが急にできるはずはなく、その説明で納得することはありえません。私は、JR九州が8月7日に本件の全容を知ったというのは嘘だと思います。調査委員会はそれ以前に報告されたという証拠を見つけられなかったと言っていますが、JR九州の意向を汲んで見つける気がなかったというのが実態だと思われます。この第三者委員会の最大の使命はJR九州役員がどの時点でビートルが浸水後も運航を続けた事実を知り、それに対してどういう対応をしたかということですから、第三者委員会は本来の使命を果たしていないと言えます。この点については、海上保安本部がJR九州本社に家宅捜査に入り、解明することが期待されます。
船内への浸水を知りながら4カ月も運航を継続した今回の事例は、旅客船事業上例を見ない悪質なものであり、これはJR九州の安全意識の欠如、利益至上主義が背景にあります。従ってJR九州の管理責任を問わない限り再発防止策としては不十分です。JR九州が8月7日に事件の全貌を知ったというのは嘘であり、損保ジャパンの保険金不正事件での桜田会長の弁明と同じパターンです。損保ジャパンの保険金不正事件で調査に入った金融庁は、損保ジャパンの実質的な最高経営責任者である持株会社SOMPOホールディングの桜田会長に責任を取らせました。海上保安本部も同等の厳しい対処をしないと今後も同様な事件が起きます。