千歳市はラピダスの失業者で溢れ返る
北海道千歳市は12月3日、ラピダス進出に伴う将来ビジョンを公表しました。
千歳市の2024年10月時点の人口は97,545人で、国立社会保障・人口問題研究所が2023年に公表した人口推計では2020年の98,000人弱をピークとして2030年には96,600人まで減ると予想されていますが、このビジョンでは2030年に10万人に達し、2036年には102,200人強まで増える(ピーク)と試算しています。最大の要因はラピダスの工場建設に伴う転入者の増加で、ラピダスが市内に工場を4棟建設すると仮定して2025〜40年の累計で約7,800人の転入者があると想定しています。その他出張者が常時2,000人前後市内に滞在すると見込でおり、これらの消費効果は2023〜40年の累計で1,423億円に上るとしています。
これから日本全国で人口減少が予想されている中、千歳市のビジョンは全国の自治体が羨むものとなっています。しかしこれはラピダスが上手く行った場合の希望的想定であり、子供が将来の夢について書いた作文レベルです。現実にはラピダスの成功の可能性は高くありません。むしろ投資家や半導体業界に詳しい人の間では成功不可能と考えられています。理由は以下の通りです。
・ラピダスが生産する2nm半導体は半導体受託生産世界トップのTSMC、同2位のサムスン電子も生産技術を確立していない。
・TSMCやサムスン電子は何十年にもわたり半導体の受託生産を行って来て生産ノウハウを蓄積しているが、ラピダスは生産経験が全くない。
・ラピダスは2nm半導体の生産技術を米国IBMから導入するとしているが、IBMには事業での生産実績がない。事業として成功できるなら自社でやっている。
・現在生産可能な先端半導体である3nm半導体の大手顧客(Apple、NVIDIA、Qualcomm、AMD)はTSMCが押さえており、サムスン電子でも委託先がない状況。こんな中ラピダスが顧客を確保できる予想は立たない。
・3nm半導体の生産では歩留まりの悪さ(不良品が多いこと)が問題となっており、サムスン電子もまだ解決できていない。
・米国政府の補助金で先端半導体の受託生産に参入したインテルは、生産と顧客確保が上手く行かず、2024年第三四半期で約2兆5,000億円の減損(回収見込みが立たないことによる設備の評価損)を計上し、受託生産事業のリストラを開始した。
・同じく米国政府の補助金を得てテキサス州に工場を建設中のサムスン電子は、顧客確保の目途が立たないとして建物完成後設備装置の搬入をストップしている。
・TSMCやサムスン電子は生産技術の開発や設備投資に年間数兆円の投資を行っており、ラピダスにはまねが出来ない。
こう見てくるとラピダスが成功する可能性は0と言ってよく、ラピダスプロジェクトは政府経産省の暴走と言えます。経産省は12月の特別国会でラピダスへの追加補助金9,000億円の予算取りをし、来年の通常国会にはラピダスの銀行借入に政府保証を付ける法案を提出し、ラピダスに4,5兆円の資金を供給する枠組みを作るようですが、この後も年間1兆円以上の資金が必要であり、どこかで行き詰まる可能性が大きいです。行き詰ったとして、例えば1円でTSMCが買うかと言うと、買いません。それは日本には先端半導体の顧客がいないからです。TSMCが米国アリゾナ州に先端半導体の工場を作ったのは米国に顧客が集中しているからであり、その他の国の顧客は台湾工場で対応できます。近々生産を開始するTSMC(JASM)熊本第1工場はイメージセンサ―世界一のソニー向け半導体を生産することになっており、顧客が確保されています。建設を開始した第2工場についてはソニーの熊本第2工場建設と連動しており、これも顧客が確保されています。同時にJASMへの出資先であるトヨタ、デンソーからの発注も期待できます(車には先端半導体は不要)。このようにTSMCは顧客が確保できない限り海外に工場を作ることはありません。これは半導体受託生産事業(ファンドリ)の鉄則でもあります。
従ってTSMCが将来ラピダスの工場を引き受けることはないと考えておく必要があります。
千歳市は、今回発表したラピダスが上手く行った場合のビジョン意外に、上手くいなかった場合のビジョンも考えておく必要があります。上手く行かなかった場合、ラピダス関係の失業者が町に溢れ、ラピダスの従業員や派遣社員向けに作られたマンション、アパートは空き室だらけとなり、千歳市がゴーストタウン化する可能性があります。千歳市には投資家の視点が求められます。