木村知事の幼稚な対応で旅行割問題が再燃

熊本県の旅行割助成金事業で県幹部から不正を見逃すよう指示されたと公益通報した県職員が「報復的で不当な懲戒処分を受けた」と訴えています。

公益通報問題は2023年2月補助金を受けた旅行会社に不正があったことが明かになったため、担当課が更に調査しようとし県幹部の了承を取り付けに行ったところ、県幹部から止めるよう指示されたというものです。通報は熊本日日新聞社に証拠の録音データを添えてなされており、公益通報の要件を満たしています。

録音データには、不正な助成金受給が疑われたTKUヒューマンが販売した旅行商品約3,000件(県の助成額約2,000万円分)について担当課の課長などが県幹部に調査の承認を求めたところ、複数の幹部から「もうよかろ」「ミリミリ(ミリ単位で)おまえらは詰めるのか」「県の決めようだろ」って言われた」(出席者である政策審議監と担当課の課長)「これまでの事業者への指導とは違う解釈だ。なかったことにしろという指示か」(職員)「うまくやれって」(政策審議監)などの声が収められており、不正の指示があったことを疑わせるに十分な内容でした。

この公益通報に基づき熊本県は2023年10月に第三者委員会を設置し、今年4月11日に報告書が提出されています。結論は、

  • 不正受給がそもそもなかった
  • 従って県幹部の不正見逃し指示もなかった

というものでした。1の理由として、担当課が不正と判断した助成金支給対象となる旅行の条件が課内でも解釈が分かれるなど曖昧だった、旅行会社に周知徹底されていなかった(条件を記載した文書も配布されていない、説明会も開催されていない)ので、これに基づいて行った旅行会社の助成金申請を不正とすることはできないとしています。従って不正があったことが前提である不正見逃しの指示も無かったというロジックです。

このロジックはちょっとトリッキー(幹部は不正があるという前提で見逃しを指示していると考えるのが常識)ですが、旅行会社が不正の汚名を着せられることを防止し、かつ旅行会社は返還した助成金の返還を受けられるようになることを考えると、こういう結論も有りだと思われます(ただし第三者委員会がこういう結論に持って行ったのは、旅行会社救済ではなく、蒲島知事と幹部を守ることだった可能性が高い)。

この結論を県が受け入れるとすれば、不正があったとした旅行会社に謝罪し、返還させた4,500万円の助成金は返還する必要があります。

2024年10月10日木村知事は記者会見し本件に対する県の対応を発表しましたが、おかしなものになっていました。不正があったとして汚名を着せたことについては県のHPに謝罪文を掲載するとしましたが、返還させた約4,500万円については返還しないとしました。

謝罪文については、謝罪の相手が記載されておらず誰に謝罪しているのか不明であり、謝罪文になっていませんでした。助成金を返還しない理由は、助成金を支給する旅行の条件は県が決めることになっており、県が決めた条件に合致しない判断して助成金を返還させたことには何ら瑕疵はないからとしています。これは第三者委員会の報告を受け入れないことを意味しています。

ならばあの録音データでは担当課が条件に反しているとして不正の調査をしようとしたところ県幹部が見逃すよう指示したことになります。これは公益通報者の主張と合致しており、この幹部は処分を免れないことになります。

そもそもなぜこんなことになったかと言うと、第三者委員会に問題があったからです。第三者委員会の委員について県は県と利害関係はないと言っていますが、疑義があります。それは委員3名のうち2名は、2018年に熊本市議会が行ったある同市議会議員に対する資格取り消し決定が審議された熊本県の自治紛争処理委員会の委員であり、その際同委員会は熊本市議会の決定を無効とするドラスティックな決定を下しています。この市議は複数の問題を起こしており、普通なら熊本市議会の決定は議会の自治として尊重されるところです。この市議はこの決定(勧告)による議員資格回復後公職選挙法違反で有罪判決を受け議員資格を喪失しており、市議会の決定は妥当だった、自治紛争処理委員会の決定が不当だったという結果になっています。ここで委員を務めた2名の弁護士を旅行割問題の第三者委員会の委員に任命したのは蒲島知事だと思われますが、その意図は、蒲島知事に責任が及ばないようにすることと幹部を救うことだったように思われます。自治紛争処理委員会の決定をみれば十分期待できます。第三者委員会報告書は、県庁トップである蒲島知事の関与には一切触れていないことから、この意図に沿ったことが伺えます。また結論をトリッキーな「不正受給がそもそもなかった」ということに持って行ったのは蒲島知事と幹部を救うためだったとも考えられます。第三者委員会が本当に不正受給はなかったと考えていたのなら、木村知事が約4,500万円は返還しないと決めたことについて抗議しないとおかしいですが、抗議したという報道はありません。

第三者委員会の「不正受給はそもそもなかった」という結論が汚名を着せられた旅行会社を救うことが目的であったなら有りだと思われますが、そのためには熊本県がこの結論を全面的に受け入れ、旅行会社に真摯に謝罪するとともに返還を求めた助成金を返還することが必要です。しかし熊本県は返還しないとしていますから、第三者員会の報告を受け入れないことになります。ならば第三者委員会の結論は、常識通りあの録音データは県の幹部が不正見逃しを指示したものであると変更するのが妥当です。第三者委員会が蒲島知事と幹部を守るために考えた苦心のロジックが、木村知事の良いとこ取りの幼稚な対応で破綻をきたしています。報告書受領後程なく公益通報者を別の理由(パワハラ)で処分し閑職に配転したのも稚拙です。公益通報者は裁判所に判断を求めると共にSNSで全国の人に検証してもらうのがよいと思われます(旅行会社も約4,500万円の返還を求めて提訴してもよい)。