ラピダスに出資した企業は株主から損害賠償訴訟を受ける
12月13日に約13兆9,000億円の補正予算が衆議院を通過したことにより、ラピダスに追加で9,000億円の補助金が支給されることが確定的です。これで来年4月以降試作まで漕ぎつけられるのは確実になったようです。これらの補助金はNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)から支出され、この資金で作られた建物および設備の所有権はNEDOに留保されており、ラピダスの財産は資本金73億円に過ぎません。ラピダスの支出はこれまで補助金で賄われていますから、黒字経営(補助金を収入に計上している)だと思われますが、試作が始まると補助金では賄えない費用が増加します。そこでラピダスは増資が必要となります。普通の会社なら主力株主(責任株主)が中心になって引受先を探すところですが、ラピダスに場合トヨタ自動車、NTT、ソニーグループ、NEC、デンソー、ソフトバンク、キオクシアの7社が各10億円ずつ、三菱UFJ銀行が3億円出資していることから分かるように、責任株主が存在しません(東会長の出身母体である東京エレクトロン、小池社長の出身母体である日立製作所も出資していない)。8社は経産省にお願いされ、断り切れなかったものと思われます。従って増資についても経産省が動くことになります。報道では既存株主は全社増資に応じ、その他新たな出資先を得て1,000億円の増資の目途がたったと報じられていますが、怪しいところです。というのは、経産省は来年の通常国会にラピダス支援のための法案を提出し、その中に政府(NEDO?)が2,000億円出資する内容を盛り込むとなっているからです。理由は民間の出資を呼び込むためとなっています。ということは民間が出資に躊躇していることを伺わせます。当たり前で、ラピダスが成功する可能性は0%であり、出資をしようものなら数年で出資額が損失化します。そうなると株主からこの出資を決めた取締役に損害賠償を請求される可能性が出てきます。尚ラピダスが成功する可能性を0%とする理由は以下の通りです。
・ラピダスが生産する2nm半導体は半導体受託生産世界トップのTSMC、同2位のサムスン電子も生産技術を確立していない。
・TSMCやサムスン電子は何十年にもわたり半導体の受託生産を行って来て生産ノウハウを蓄積しているが、ラピダスは生産経験が全くない。
・ラピダスは2nm半導体の生産技術を米国IBMから導入するとしているが、IBMには事業での生産実績がない。
・現在生産可能な先端半導体である3nm半導体の大手顧客(Apple、NVIDIA、Qualcomm、AMD)はTSMCが押さえており、サムスン電子でも委託先がない状況。こんな中ラピダスが顧客を確保できる予想は立たない。
・3nm半導体の生産では歩留まりの悪さ(不良品が多いこと)が問題となっており、サムスン電子もまだ解決できていない。
・米国政府の補助金で先端半導体の受託生産に参入したインテルは、生産と顧客確保が上手く行かず、2024年第三四半期で約2兆5,000億円の減損(回収見込みが立たないことによる設備の評価損)を計上し、受託生産事業のリストラを開始した。
・同じく米国政府の補助金を得てテキサス州に工場を建設中のサムスン電子は、顧客確保の目途が立たないとして建物完成後設備装置の搬入をストップしている。
・TSMCやサムスン電子は生産技術の開発や設備投資に年間数兆円の投資を行っており、ラピダスにはまねが出来ない。
損害賠償を提起されたら出資の妥当性を証明することは困難であり、損害賠償が認められる可能性が高いと思われます。多分出資は取締役会で承認された形をとると思われますが、損害賠償訴訟は出資の判断で重要な役割を果たした取締役(トヨタであれば経産省の窓口になった取締役、佐藤社長、豊田会長)にピンポイントでなされます(小林製薬がそう)。従って訴訟の対象となった取締役にはかなりストレスになるはずです。
こんな損失化間違いない出資を決めることは背任行為であり、欧米の企業ではありえません。出資を決めた企業はガバナンス不全の危ない会社と言えます。トヨタの豊田会長が名経営者と言われない所以です。