日産とホンダの経営統合は100%無い!
12月19日、日経が日産とホンダが経営統合の話し合いに入ったと報じました。その後の報道はまるで経営統合が実現するような論調が多いですが、両社の経営統合は100%ありません。それは日産の財務内容の悪さとホンダの資金力からくる当然の帰結です。日産自動車の2024年度9月中間決算(連結)は
売上高 5兆9,842億円(前年同期比-791億円)。
営業利益 329億円(同-3,038億円)
純利益 192億円(同-2,770億円)
販売台数 160万台(同-2万台 )
となっています。一応黒字ですが、自動車セグメントは1,161億円の赤字となっており、これを販売金融の利益(割賦販売の金利収入)1,490億円でカバーした内容となっています。自動車会社(メーカー)の場合、自動車を工場から出荷すれば売上がたつので、販売不振の会社では決算を良くするため期末に無理やり販売会社に出荷することが行われます。この結果販売会社では在庫が膨らみ、これを翌期メーカーが赤字を負担して(販売奨励金を出して)処分することになります。日産はこれを長い間やっていたようです。更に日産の場合、主力市場である米国で売れ筋であるHVやPHVを持っておらず、今後も売上減少が予想されています。そのため米国やメキシコの工場では来年3月まで20%程度の減産が報道されています。これに約9,000人のリストラや工場閉鎖(ラインの閉鎖)を予定していますので、これらの損失も巨額になります。もう一方の主力市場である中国は、中国メーカーのBEVに席巻され、日産を含む海外自動車メーカーは青息吐息の状態です。これを考えると今期の日産の損益は3,000~5,000億円の赤字が予想されます。これで回復が見込めるなら良いのですが、回復は全く見込めません。今後はこれ以上の悲惨な決算が予想されます。
更に日産を追い込むのが来季の資金繰りです。この中間期決算を見ると、今後1年以内に返済期限が来る借入金が1兆1,223億円、償還期限が到来する社債が3,826億円あります。借入金の場合、業績がよければ返済額と同額の新規融資が実行され(借り換え)問題ないのですが、今後業績悪化が確実な日産の場合、新規融資が得られないか減額となる可能性が高いです(社債の場合10%以上の金利なら引き受け手はあるかも)。従って来期日産の最大の課題はこの不足する資金の確保になります。
今回日産とホンダの経営統合の話が急に出たのは、台湾の鴻海精密工業(鴻海)が日産に買収(資本参加)を申し込んだからと報道されています。鴻海は日産が来季資金繰り倒産の瀬戸際になることを知っており、買収を急いでいません。「何なら当社がお手伝いしますよ」程度の声掛けだと思われます。鴻海がルノーにルノーが保有する日産株約36%(うちルノー名義約15%、信託銀行名義約21%)の買取りを申し入れたとの報道がありますが、この株には日産に優先買い取り権があり、ルノーは先ず日産に買い取りを請求する必要があります。それに対して日産が買い取らなかった場合のみ鴻海が買い取ることができます。このことは鴻海も良く知っており、今後ルノーが日産に買い取り請求をした場合、日産は買い取れないと予想していると思われます。約36%の買い取り総額は約6,000億円程度と予想され、借入金返済資金の確保に追われる日産にこんな資金はありません。(経営統合の場合、株主総会で議決権の2/3以上の賛成が必要なのでルノーが反対なら統合は実現しまないことになります)。
もしホンダが日産と経営統合するとすれば、ホンダは日産が来季必要となる借入金の返済資金を融資する(または銀行借入に債務保証をする)必要があります。日産にはそれ以外の長期借入金が2兆7,706億円、社債が2兆1,011億円(合計約5兆円)あり、今後次々と返済期限が到来しますので、ホンダはこれらを肩代わりする覚悟が必要となります。
ホンダの2024年9月中間期の決算は
売上高 10兆7,976億円
税引き前利益 7,419億円
純資産 12兆6,725億円(自己資本比率43.2%)
と立派な内容ですが、それでも銀行借入金が約10兆円(短期借入金4兆2,275億円、長期借入金6兆2,574億円)あります。従って銀行の承認なしに日産との経営統合に突き進むのは困難です。
こう見てくると日産とホンダが経営統合を行うに当たっての第一関門は、ホンダの取引銀行となります。ホンダのメインバックは三菱UFJ銀行だと思われますが、今回の報道を見て三菱UFJ銀行の担当部長や役員が駆け付けているはずです。三菱UFJ銀行としては反対します。これに伴いホンダの財務部門の役員は反対に回りますし、たぶん賛成する役員は無いか少ないと思われます。その結果日産とホンダの経営統合案は取締役会で承認されませんし、取締役会に上程することもできないと思われます。例え取締役会で承認されたとしても株主総会で否決される可能性が高いです。そしてこの案を取り上げた三部社長は次の株主総会で取締役に再任されないか、取締役会で社長に再任されない可能性が高いと思われます。
今回の統合が報道されたことで日産の株価は20%以上上がったようですが、統合不成立が報道されることで40%以上下がり、結局日産の信用低下が大きく進むことになります。最終的には鴻海にすがるしかなくなると思われます。