学生にバイトを強いる日本は中韓台に勝てない
与党税制改正大綱によると、これまで所得税が課税されない年収が103万円以内となっていたのを123万円に引き上げことが目玉になっています。また大学生についてはこれまでアルバイト(バイト)収入が103万円以内なら親の所得から63万円控除(特定扶養控除)できましたが、これを150万円まで引き上げるとのことです(バイト収入が123万円を超えれば所得税が発生するのは一般人と変わらない)。これにより親は特定扶養控除できるケースが増えますし、子供は特定扶養控除できるようにバイトを103万円までに抑える必要がなくなります。この改正の意図は学生を持つ親の支援にあるように思われますが、実は学生がバイトできる時間を増やし、飲食店などのバイト不足を解消することにあるようです。
最近のある調査によると学生の生活費は月約127,000円で、親からの仕送りの他多くの学生がバイトをしています。学生1人当たりのアルバイト収入は平均月約6万円となっています。時給の平均が約1,000円となっていますので、時間にすれば大体月60時間程度(週約15時間、1日約2時間)となります。与党の案ではこのうちバイトに明け暮れる学生のバイト時間を更に増やそうとしていることになります。学生がバイトをする最大の理由は学費が高いこと(これを親に負担してもらっているので毎月の仕送りで無理は言えない)です。現在学費が私立大学と比べて安い国立大学で535,800~642,960円であり、平均年収が約460万円である給与世帯ではなかなか出せない金額です。そのためこれらの世帯では奨学金や学費ローンを利用している学生が多くなっています。この場合学費だけでも大学4年間で200万円以上の借金を負うことになりますし、私立の場合は600万円を超える借金を負っている学生もいるようです。
このような状況にも関わらず、今年3月慶大の伊藤塾長が中教審の場で「国立大学の授業料を年間約150万円に引き上げるべき」と主張したことから、東大が先頭を切って引き上げました(642,960万円へ)。伊藤塾長は引き上げの理由を「海外の大学の授業料は最低年間300万円であり、これくらいないと良い教育はできないから」と述べましたが、嘘だらけでした。というのは、これが言えるのは英米の私立大学(米国では7割の学生が州立大学在籍)のことであり、欧州の大陸国家(フランス、ドイツなど)は国立大学中心で大学授業料は無償のところが多くなっています。また東アジアを見ると、中国は10~20万円(理系は実質無償が多い)、韓国および台湾は25~35万円と日本の半額となっています。これを見ると欧州大陸の国が産業競争力を高い水準で維持し、日本が多くの産業で中国・韓国・台湾に抜かれた理由が分かります。
自民党の小野寺政調会長が12月15日札幌市で開かれた党のセミナーで講演し、今回の150万円への引き上げについて
「野党各党は壁を取っ払えと話しているが、根本、おかしいと思う。なぜ学生が103万円まで働かなければいけないのか」「学生は将来のためにしっかり勉強してほしい。学業に専念できるような支援を国会で議論すべき」と述べましたが、全くその通りです。
この発言について、ひろゆき氏が「小野寺大臣は、自民党で30年近く政治家をなさってますが、具体的にはどういった『学業に専念出来る支援』を作ったのですか?学費上昇を止めずに増税した実績は存じております」と皮肉たっぷりにコメントしたようですが、良い意見は素直に評価すべきだと思います。
伊藤塾長の発言以降自民党では慶大OBを中心とした議員が政府や文部科学省に国立大学授業料値上げの提言を出したようですが、日本の国立大学授業料は他国に例を見ない程急激に値上げされており、この結果学生がバイトで勉学に集中できず、学力が低下する事態になっています。これにより製造業に就職する理工系学生の学力が欧米や中国・韓国・台湾の学生より相当低くなり、製造業の競争力低下に繋がっています。国立大学の目的は国家の産業基盤の強化に貢献する国民を養成することであり、この目的からすれば国立大学授業料は欧州大陸国と同様無償が望ましいことになります。少なくともアジアのライバルである中国・韓国・台湾の大学並みに引き下げる必要があります。これを実現しないと日本の製造業の復活はありません。