ラピダスの銀行借入に政府保証を付けることは禁じ手

2nm先端半導体の受託生産を目指すラピダスは今年4月から試作に入るとの報道です。建物の工事は2023年9月開始でしたから約19カ月に試作に漕ぎつけており、申し分ない進捗と言えます。それに先端半導体を製造するには不可欠な極端紫外線(EUV)露光装置が日本に初めて導入されたことは画期的と言えます。試作と言うことですから、技術導入するIBMが研究開発として確立した製造技術を大規模な設備で確立することになりますが、これは大難関と言えます。IBMは半導体受託生産世界2位のサムスン電子とも2nm先端半導体の製造技術に関して共同開発を行っています。なのにラピダスと提携したということは、サムスン電子との共同開発が上手く行っていないということであり、先端半導体の製造が如何に難しいかが分かります。特に大量生産の場合、製造技術の継続的改善が不可欠であり、それが出来るのは長い間半導体を製造しているメーカーのみです。そのため半導体の受託生産は、TSMCとサムスン電子に集約されており、新規参入は不可能と考えられています。コロナ禍や中国と台湾の関係悪化などにより半導体の供給に乱れが生じ、半導体を使うPCや自動車、家電などの生産に遅れが生じたため、米国やドイツ、日本などでは、自国で半導体を生産する政策を推進しましたが、結局TSMCとサムスン電子の工場を誘致することが一番という結果に終わっています。米国では自社で半導体を大量に使い、かつ自社で生産していたインテルに補助金を出して受託生産も行わせようとしましたが上手く行かずインテルの経営危機を招きました。製造業が一旦自社生産をやめ製造を委託すると、自社から製造技術が消失し、再度自社製造に戻るのは不可能となります。そう考えると受託生産という事業形態は強力と言えます。

こんな中ないもの尽くしであるラピダスが2nm半導体の受託生産事業で成功できるとはちょっと想像できません。ラビダスにあるのは経産省が支援する豊富な資金のみであり、銀行が半導体事業を始めるようなものです。銀行の場合は審査部の審査を通らないことから、実現不可能です。これが実現しているのは、経産省官僚の妄想を後押しする経産族有力国会議員がいて、それに理解を示す首相がいる状況においてのみです。ラピダスの場合は、半導体不足を奇禍として経産官僚が経産族のドンと言われた甘利明衆議院議員(当時。昨年の衆議院選挙で落選)を味方に付け、甘利議員を中心とする国会議員応援団を結成し、同じく経産族で甘利議員と親しい岸田首相の支持を得たからです。製造技術の研究開発および試作を行うことは否定しませんが、受託生産の開始はその結果を検証してから決める必要があります。従って試作までの補助金の予算化は良いとしても、その後生産に必要な資金調達(銀行借入に政府保証を付ける)まで法制化することは行き過ぎです。そもそも政府は、ラピダスは民間企業と言っており、ラピダスの銀行借入に政府保証を付ければ他の民間企業でも付けざるを得なくなり、歯止めが効かなくなります。ラピダスの銀行借入に政府保証を付けることは禁じ手と言えます。